アイドルを本気で応援すると金が要ります。
いきなり「恋空」くらい切ナイ書き出しをしてしまったのですが、これは紛れもない事実ですね。ライトに推す分には可愛いお姉さん(あるいはお兄さん)を見てキャッキャしてれば済む話ですが、本気で推すとなれば、これはもうお金がいくらあっても足りない。なにせアイドルは水物。アイドルの中の人にも生活があるわけで、運営側に、そしてアイドル本人にお金が循環しなければ活動自体立ち行かない。だからこそアイドルを本気で推して本気で「自ら継続させる」くらいの強い気持ち、強い愛がオザケンばりになければその推すべきものが消えてしまう。そういう存在です。
だからまあ、アイドルに関して「札束が飛び交うことで何かが決まる」というのは、文化としてある土壌だとは思います。もちろんアイドルに限らずではあるんですけども。
今オジサンが注目しているアイドルであるところのラフ×ラフさんはフジの大型音楽番組「FNS歌謡祭」の出演権をかけてTIF(東京アイドルフェスティバル)が主催している勝負に参加しています。ここで勝つと出演権がもらえるというやつ。でまあ、色々審査対象はあるのだけど、現在「YouTubeの応援動画の再生回数を競う」ということをやっているのですね。
で、最初のほうは北海道を中心に活動しているアイドル「タイトル未定」とトップを争うように動画の再生回数が並んでいました。twitter上でも「応援してください!」と動画のリンクが貼られているツイートが流れてきたり、アイドル本人が宣伝するツイートが流れてきたりと、草の根運動みたいなものが起きていたわけです。まあよくある流れです。ラフラフのメンバーである吉村さんは自分で編集したアピール動画を拡散し、そのアピール動画についたコメントにさらにコメントしたりして、やる気を見せていました。こういうのはほっこりします。
じゃあそんなものを見て自分が「羨ましい!もなみん(吉村の呼び名)からコメント欲しい!」となるかといえば、その手は桑名正博セクシャルバイオレットNO.1なのです。この手の投票システムは結局組織の強さが票の数に直結してしまうので、自分は1回2回は見たけども「どうせ何か大きな力とかはたらいて、わけわからんことになるんだろ」と思ってさほど真剣に応援もしていなかったのですね。たけしの挑戦状風に言えば「こんなげーむにまじになっちゃってどうするの」である。ここらへんがもうアイドルを真剣に推す資格も自覚もない。
んでまあ完全に他人事として興味本位でその動画再生回数の動向を見ていたら、突然にあるグループの再生回数が急に回り始めたわけです。ははーん何かあったな、と。そうするとラフラフ運営がこんなツイートしたわけですよ。
TIF×FNS歌謡祭コラボ企画にて
— ラフ×ラフ (@roughlaugh_o) 2024年11月17日
ラフ×ラフを応援いただいている皆さまへ pic.twitter.com/5eQEldZ5av
最初にこれを読んだときは「ん?やる気元気井脇宣言か?」と思ったのですが、どうやらその少し前に「タイトル未定」の運営が「TIF運営に問い合わせたら広告つけて再生回数回しても問題ない、と言ってるから広告つけるよ」という旨を発表。これは「タイトル未定」側が仕掛けたことではなく、他のグループがそういうことをやり始めたので、「それはどうなの」という問い合わせをTIF側にしたら「問題ない」という回答がきたので、「じゃあそれなら負けられないのでやりますよ」という宣言だったようだ。
つまりこのツイートは、これらの動きを見たラフラフ運営が「そういうことならうちもやりまっせ」という広告による札束殴り合い参加宣言だったわけですね。そしてこの宣言が出た翌朝、ラフラフの再生回数は50万回以上も増えた。これを書いている11/18の23時時点で1位ラフラフ88万回、2位タイトル未定48万回。ほぼ勝負あり、である。ここからさらなる札束の殴り合いがなければ、であるが。
こういう審査方法は「弁えない誰か」がいると、こういう事態になるのは目に見えている。だから自分は真剣にならない。バカを見るからだ。決して誰もルールを破っているわけではない。ここ最近の社会の根幹の問題でもあるが「ルールを破ってなければ何やってもよい」という感覚が生み出した「普通にやってることが報われない感じ」そのものである。「やるからには勝たなければ、出演できなければ意味がない」という気持ちも分かる。それこそ応援してくれた人たちの気持ちを無駄にできないという各アイドルの運営の判が分からないわけではない。
しかしアイドルのファン同士が、そしてアイドル本人が草の根的に広めようとしていたものを、札束のチカラでもって全てをなぎ払うサマはやはりどこか滑稽ではある。抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り返していたところに広告でドーン、だもの。身も蓋もない言い方をすれば「本当にそれでいいんだな」である。もし仮にこれで出演権を手にしてFNS歌謡祭に出たとて、出たから、それを手放しで「応援した甲斐があった!」となれるほど若くないって。金のにおいがするんだもの。
こうなってしまった原因としてルールをちゃんと決めていなかったTIF側の落ち度を指摘する向きもあるが、自分はあまりそう思ってない。色々ルールを決めたところで、どうせ抜け道を見つけて同じようなことになるに決まっているからだ。これは断言してもいい。この手の投票は結局今回のようなことにしかならない。
大事なのは「出来るけど、やらない」という選択肢を取れたかどうかじゃないのか。
考え方の問題だ。「動画の再生数を広告使って回してでも応援する気持ちに応えたい、そして勝ちたいし、FNS歌謡祭に出演させたい」というのはひとつの考え方としては理解できる。そして「こんなやり方で勝って出演するFNS歌謡祭は何かの勲章になるのか。ひいてはこの先のアイドル活動に何か影を落とさないのか」という自分のような考え方も、決して少数派ではないだろう。そう思いたい。どちらが正しい、間違っているではなく、この状況をどう捉えるかだ。少なくとも広告を打つという判断を下したグループの運営には、そういう議論があったと信じたい。
そういった議論があったうえで広告を打ったのであれば、それはもうそういう方針だからこれ以上言うことはない。自分の気持ちが半歩離れるだけ。そもそも金も出していない自分のような人間は半歩離れたところで何の影響もなかろう。その代わり「同じ土俵に乗ると何か大切なものが失われるのだとしたら、ここで負けてもそれはやらない」という判断を下した側に少しだけ気持ちが引っ張られることはあるかもしれない。もちろん引っ張られたところでそちらにも金は出さないんだから、全てはどうでもいいことである。
ま、好きにやればいいのよ。金払ってない人間の戯言だこんなもの。