聞いちゃダメ

「プロフェッショナル」に萩本欽一。欽ちゃん。

 

熱心に勉強していた大学を退学し、「あと2年はお笑いに集中したい」との意向を示した萩本を追いかけたもの。2年後80歳となることから、ひとつの区切りだと考えていることは間違いない。

 

番組内容としては「命を削ってまでお笑いに情熱を傾ける男、萩本欽一」的な作りになっており、見ていない人がいたら「そういう内容でした」と伝えることによってほぼ差し支えない感じ。悪い言い方をすれば「番組の構成として何の裏切りもない平坦なもの」となる。

 

もちろん欽ちゃんが仕事の合間にクラクラするのを隠しながら、プロの仕事に徹する姿はこれぞプロフェッショナルという映像にもなっている。舞台裏ではよろめき水を補給し酸素を吸いながら必死にこらえつつも、客前に出たときはそんなことを微塵も感じさせずに「いつもの欽ちゃん」を振る舞う姿は感動すら覚える。

 

そしてインタビュー部分では「欽ちゃんらしさ」も健在。「なんで(そこまでして、その歳になって)笑わせたいのか」という質問に対し「コメディアンにつまらない質問するなよこの野郎」とくさしつつも、「夢がある」と返答。「人が亡くなったときには必ずその人の歴史が流れる。それの新しいのに出会いたい」「(自分が亡くなった時に)それでは新作、彼が遺してった作品を見てみましょう(となりたい)。ご冥福を祈りますではなく、笑っちゃっていいのかという、アナウンサーのニッコリした顔が見たいっちゅうだけ」と続ける。

 

この発言は今回の番組の核になっている。欽ちゃんが自らの死を近いものとして確実に意識しているということ。そして自分の積み上げてきた笑いを次の世代に必死に託そうとしていること。それらを敢えての欽ちゃんの言い回しにすると、このような話になるということ。もちろん額面通りに捉えることも可能だろうけど、古市憲寿ばりに「でも死んだら、欽ちゃんがアナウンサーの顔なんて見ること絶対に出来ないですよね」と言うのはさすがに野暮だろう。

 

ただそれでも「自分の死んだときにコントの新作が」云々の発言はさすがに「ん?」とは思ったんだよな。欽ちゃんが亡くなったとき、NHKは「これでもか!」と言わんばかりに今回のプロフェッショナルでマジメな顔して質問に答える部分を流し、真顔でアナウンサーが「ご冥福をお祈りします」って言うだろう。その素材を提供しちゃってるのは間違いなく欽ちゃん本人なのだけど、そこらへんのツッコミもやっぱり野暮なんだろうか。

 

いっぽう自分がこの放送で一番面白かった部分を挙げると、「仮装大賞」の収録の現場入りするときに、その日共演するANZEN漫才が挨拶に来ていたところ。プロフェッショナルの取材のカメラを紹介し「これ日本テレビのカメラじゃないから」と言われたみやぞんが「え、違うんですか?ソニーですか?」と返し、それに対して「一番(企業名を)言っちゃいけない局だよ」と欽ちゃんがさらに返す部分。

 

みやぞんが「日本テレビのカメラ」を「日本テレビが作ったカメラ」と勘違いしているのも面白いが、その天然ボケ(という言葉も元々はジミー大西に対して欽ちゃんがつけた言葉)に対して「そういう意味じゃないよ」とか「NHKだよ」とか言うのじゃなくて「(企業名を)言っちゃいけない局」と返す、この完璧な受け。みやぞんの狙ってないボケが際立ってしまう場面だけども、何気に欽ちゃんの返しが素晴らしい。番組の構成上はさほど必要ない場面だったように思うが、それでもこのシーンを突っ込んできたのは、作っている側にも同じような気持ちの人がいたんじゃないのかなあ、とは思う。

 

たぶん欽ちゃんの訃報の際には、彼のコントの新作映像が流れることはないだろう。ただ自分はほんのちょっとだけ、みやぞんとのやり取りのシーンは流してほしいかな、とは思った。ただその前に、欽ちゃんの訃報はまだ聞きたくはない。取材中もずっと無理している感じがあったので、コロナ大流行のこのご時世、まずは体調を崩さないようにしてほしい。