ファンタジー北芝

ラブシャッフル
玉木宏主演、野島伸司脚本のドラマ。金も地位もある満たされない4組のカップルがお互いの恋人を交換するという話。


玉木宏貫地谷しほり香里奈にDAIGO、松田翔太小島聖谷原章介吉高由里子。この顔ぶれを見ても分かるように、美男美女(そりゃ好みはあるだろうけど)。つまりは力の入った豪華なキャストということです。今期のTBSイチ推しなのではないだろうか。昔ほどのバリューはないでしょうが「野島伸司脚本」というのもプラス要因であったはず。しかし蓋を開けてみれば初回視聴率は10.0%とかなりお寒い数字に。


裏では数字の取りそうな映画「L change the World」(15.3%)は放送されていた。けどこの数字は低い。ドラマの前番組「金スマ」SPの綾小路きみまろが21.4%を取っていることを考えれば尚更である。「金スマ」とドラマの視聴者層が被っているとは思えないが、それでも数字が半減しているのは明らかに視聴者に「避けられている」という印象。


ではなぜ避けられたのか。2回めならともかく初回でこれだけ低い。キャストだってそれなりに豪華なわけで、考えられるのは「設定」でしかないだろう。そりゃ互いの恋人を複数交換するなんてのは倫理的にもどうか、というのもありますが、それ以上に「美男美女がそんなことする道楽って何?」という点に尽きるだろう。しかもドラマを見れば分かるが、彼らはルックスがいい上に金もあるし地位もある。満たされてないのは恋人との心だけ。


これがバブル期なら「あるある」なのかもしれません。しかし2009年の世の中、世間の人々は心もそうかもしれないが、金も地位も満たされない人で溢れている。そんな人々に恋人交換する余裕もへったくれもない。しかもやってる奴らは美男美女ときたもんだ。そこに「勝手にやってろ」という感想を抱くことは不思議でもなんでもない。それが視聴率にダイレクトに反映したんじゃなかろうか。自分もさすがに自宅マンションに併設されているプールに婚約指輪を投げられるシーンでは「勝手にやっとれ」と思ったもの。プールのあるマンションに住むやつらの話というだけで、なんか現実のものとは思えない。


ただ、翻ってこのドラマが「あくまでファンタジー」と思えばそこまで腹も立たない。なまじ日本人が現実で生活しているような設定だから腹が立つわけで、どこか知らない星の話だと思えばまだ諦めがつくというか、別物として済ますことが出来る。いちいち「ハリー・ポッター」シリーズに「魔法なんか使えるかよ」と突っかかるバカはいない。それと同じだと考えればいいのだ。


何を隠そう制作側としては思いっきりそのつもりで作っている。自分は番宣を見ていないので不明だが、実際にそういう説明がされているのかもしれない。しかしそうでなくてもエンディングまで見れば自ずと気が付く。野島伸司お得意のリバイバル楽曲使用で、今回使われているのはアース・ウインド・アンド・ファイアーの「Fantasy」という曲。つまりはこの話そのものがファンタジーであるという楽曲による弁解である。そのつもりで見てくれとエンディングで言っているのだ。しかし、誰も最初から見なかったというわけで、弁解の余地すらない。ここが最大の誤算なのかもしれない。ただそうであっても「物語をファンタジーだと理解して見るほどのドラマでもない」と言われれば返す言葉がない。


個人的な感想を言えば、設定だけなら「メイちゃんの執事」も真っ青なエロゲ妄想脳の発想であり、ドラマにくんずほぐれつの際どい描写があればもっと視聴者の食いつきがよくなるのかなと思う反面、「結局美男美女がイチャついているだけじゃねえか」という負の反発も強くなる気がするわけで、今後の上積みがあまり望めない。ということはやっぱり強くオススメは出来ない。


思うに、絶対にこのメンバーの中に一人「気立てが最高によく、床上手なブス(ブサイク)」をひとり混ぜておくべきだった。女性であれば森三中程度の中途半端なブサイク(いわゆる「ブスカワ」)ではなく、救いようのない真性のブス。いわばジョーカーのような役割。恋人交換が「恋人じゃない別の人と過ごすことで、恋人の真価を問い直す」のが目的であるならば、価値観を根底から覆すような人がいないと話として面白くない。ルックスを除いて何から何まで勝るブス(ブサイク)よりもルックスだけ勝る元の恋人を選ぶことが出来るのか。良くも悪くも「それでいいのか」と絶対に思うもの。


金持ちの美男美女だけで構成された「ラブシャッフル」はそれこそファンタジーでしかないのだが、そこにほんの少しのリアルっぽいもの(但し自分は「気立てが最高によく、床上手なブス(ブサイク)」なんてのもファンタジーでしかないとは思っているけど)を混ぜることで大きく意味あいが違ってくるように思うのだが。「あのメンバーのなかにこのブサイクは何?」という意味でも視聴者の興味を引くんじゃないだろうか。


ファンタジーのみで成立するドラマ、殊更恋愛ドラマなんてのは野島伸司の得意分野なのだろうが、「興味を持たせる」という点で初期設定が厳しすぎたかも。脚本に自信があっても初回見られなければ意味がない。そういう意味では同じくファンタジー色の強い(というか現実味の薄い)恋愛ドラマだった「薔薇のない花屋」が、初回に雫ちゃん(八木優希)にパペットマペットの覆面をかぶせておくという反則ギリギリのあざとさで興味を惹き付けたのは正解だったんだろう。


自分はとりあえず次回以降も見るけど、積極的にオススメはしません。出演者が好みならば見ても損はない、くらいの評価です。DAIGOが普通に喋るのでファンの方は萌えるかもしれません。