古臭いけども

薔薇のない花屋」が結構面白かったです。


野島伸司脚本の月9ドラマで、香取慎吾竹内結子主演。妻(本仮屋ユイカ)を亡くした花屋(香取)と、盲目(のふり?)の女性(竹内)のラブストーリーをとりあえずは装ってはいるが、野島脚本なのでこれがどう転ぶかはよく分からないと言ったところ。


相変わらず「盲目」というハンディキャップをヒロインに背負わせるという「足枷」をつけないと物語を転がせないのか、という批判を受けそうなもんだけども、それでもまだ「ウソ」の可能性があるのでここを批判するのは早計なのだろう。でもこうしないと物語が発想できないというのはやはり21世紀にはそぐわない気はする。


野島伸司といえば90年代のドラマに多大な影響を与えた脚本家であるけども、21世紀に入ってからはいまいちパっとしない作品が続いた印象。「高校教師」の上戸版は大きくスベり(あれは時代が「高校教師」を追い抜かしてしまったという理由のような気はするが)、同じく竹内結子で月9だった「プライド」も数字こそ高かったが、「プライドの影響でアイスホッケーが人気」だというのを無理やりフジが煽っていた印象のほうが強く、ドラマそのものの評判が良かったという記憶はあまりない。


こんな書き方をすれば「野島伸司は完全に時代遅れの作家だ」とでも言いたげなのだけど、特にそう思っているわけではない。ただ、このドラマに目新しさがあるかと問われれば「無い」と答える。さすがに陳腐とはまでは言わないが、設定と展開だけ考えれば「ありきたり」の部類に入るだろう。


しかしこのドラマ、最近のドラマにはない「ドラマの雰囲気」を持ったドラマのような気がする。昨今のドラマは原作モノが多すぎて、脚本そのものに脚本家の個性が出ることが少なくなったように思うけども、それでも個性が滲み出る脚本家ってのはいる。野島伸司の場合、暴力や病気などの「大袈裟」が彼のドラマの個性として目立つけども、今のドラマ界においては「90年代の雰囲気を持っている」ことが個性になっているような気がする。


そりゃ90年代のドラマを作り上げてきた脚本家であるから、90年代のドラマの雰囲気を2008年のドラマにおいてまとっていても何ら不思議ではないのかもしれないが、このご時世には逆にこういういかにもドラマ的な展開が「安心」というか「懐かしさ」というか、ちょっと前までは「古臭い」として処理されてきた事柄が一転して「ドラマっぽい」ドラマに思えるから不思議だ。


これはおそらく「ドラマっぽいもの」が90年代後半から21世紀に入るにつれて敬遠されるようになり、ドラマっぽくない原作があるマンガやら小説やらがドラマになったことが原因だろう。今度は原作があるものが飽きられるようになり、また90年代前半のようにいかにもドラマであるようなものが流行るという兆しなのかもしれない。もしくは、フジが意図的に90年代前半のトレンディドラマを牽引した月9枠で取り戻そうとしているのかもしれない。


原作がないオリジナルというだけでも最近では珍しいのだけど、それに加えて「90年代っぽいつくりのドラマ」は2008年においては新鮮に映る。そして当時のドラマを真剣に見ていた世代にはある種の懐かしさを与えるような気がする。初回の視聴率次第のような気もするが、このドラマが安定して高い数字を取るようなことがあれば、日本のドラマ界はまた方向転換を迫られるのかもしれない。大袈裟かもしれないが、そんな気がした。


あとは番宣でも執拗に顔を隠され、ドラマ中盤まで特に意味もなく頭巾を被されていた香取の娘である雫を演じた八木優希が凄い。経歴を調べてみると割と有名な子役で自分も何度か目にしていた。もちろん調べてみるまで気付かない。しかし頭巾を外して顔を出したときには「こいつはとんでもない子役がまだまだいるもんだな」と素直に感心してしまった。


あの頭巾を「視聴者の興味を引っ張るためのニンジンだ」と切り捨ててしまうのは容易いことだし事実その通りだとは思うのだが、八木の素晴らしさを中盤まで引っ張ってみたいという製作者の思惑は何となく理解出来る。あれだけ達者かつ魅力ある子役の力なら借りたくなって当然。八木を起用しただけでもこのドラマは価値があるかもしれない。


個人的には毎週VHS画像ながら登場するであろうユイカ嬢に敬意を表して次週以降も見たいと思います。竹内結子があまり得意ではないんですが、八木とユイカ嬢のふたりがいればお釣が来ます。