それはダメな嘘

「クレイジージャーニー」が爬虫類ハンター加藤英明の内容に問題があったとして謝罪および調査を終えるまでの放送休止を発表。

 

爬虫類ハンターこと加藤英明先生が海外に行って珍しい爬虫類(じゃない場合もあるけど)を自らの手でつかまえるという旅に番組が同行し、実際に捕まえている映像を放送するという内容。番組内では加藤先生が長時間探して捕まえた、として放送されていたが、実際には一部の動物は現地のコーディネーターが用意していたものを放ち、それを捕まえていたとのこと。

 

まずは自分の率直な感想から。とても悲しい。

 

「クレイジージャーニー」はとても好きな番組で、おそらく全て見ている。熱狂的というわけではないけども、欠かさず全部見ているのだからまあ好きなほうだとは思う。特に加藤先生の爬虫類ハンターの企画も好きだ。加藤先生の情熱と実際に登場する希少な爬虫類の相乗効果でワクワクさせてくれる数少ない番組だった。

 

だからまあ何の疑いもなく見てはいたけども、ここ数回の爬虫類ハントの旅は確かに「よく獲れている」とは思った。加藤先生が偶発的に捕まえたものはともかく、お目当ての爬虫類がしっかりとまあ見つかるのは「見つかるまでやっている」と思っていたが、そんなに簡単な話ではやっぱりなかったということだ。以前は「見つからなかったけど後日映像に映っていた」なんてのもあったけど、最近はずっと「見つかっていた」のは、用意していたというだけの話だったのだ。

 

現地のコーディネーターが爬虫類を用意していたことを加藤先生は知らなかったらしい(という報告がTBSから発表されている)。もし加藤先生がこの件を知っていたのならば「共犯関係」が成り立つわけで、あの無邪気に動物を捕まえていたものまで全て演出ということになるわけで、番組と加藤先生ともどもかなり厳しい。ただ加藤先生がこのことを知らなかったのであれば「被害者」という言い方も出来る。もっとも加藤先生も大人なので、「どこまで知っていたか」の真相は不明であるが、ここは「知らなかった」ことを信じたい。

 

別に自分はやらせ(演出)そのものを否定しているわけではない。

 

自分の文章を長いこと読んでくださっている方はご存じだと思うが、自分はバラエティ番組に関するやらせ(演出)は「割と許容するほう」である。「面白ければやってもいい」というスタンス。それは見ているほうも「薄々感じるもの」であるし、それで面白いのであれば誰も損しないからだ。

 

しかし「消えた天才」といい「クレイジージャーニー」といい、やらせ的演出はしてはいけない番組もあると思っている。なぜなら「演出が入ることによって、その出演者の価値を不当に下げることになりかねない」からだ。

 

「クレイジージャーニー」に過剰な演出があれば、それは出演してくれるジャーニー全てに迷惑がかかる。今回の件に関して加藤先生の信用は少なからず揺らいでいるだろうし、たとえば丸山ゴンザレスが実際に危険な場所に取材に行って危険な目に遭いながらも貴重な取材をしているにも関わらず、「どうせ危険なことになったのも現地の人に頼んだ過剰な演出なんでしょ?」と疑われてしまう。これは丸山ゴンザレスの取材の価値を不当に下げることになる。番組がやったことが出演者に全部跳ね返ってくるのだ。自分はこういう嘘はやっちゃいけないと思っている。

 

「消えた天才」も全く同じこと。本当に凄い才能を持っていたのに、その才能を紹介するVTRに不当な演出があれば「本当は凄くなかったのに凄かったように見せてるんじゃないのか」と、やっぱり本来の価値を不当に下げていることになる。

 

一方で「イッテQ」の架空の祭りみたいなものは(実際にそういう祭りがあるというニセの情報を流布すること以外は)、宮川大輔が頑張ってそして最終的に面白いというだけなので「やってもいい嘘」だと思っている。

 

番組の根幹にかかわる信頼を毀損してまでついていい嘘はない。今回のは明らかに「ダメな嘘」だ。「クレイジージャーニー」という番組は「出てくる人たちが掛け値なしに凄いことをそのまま見せてくれる」ことに面白さがあった。しかしその価値を自らの演出で毀損した。忸怩たる思いではあるが、ここは潔く番組を畳むべきじゃないかと個人的には思う。それは「やらせの責任を取る」という意味ではなく「番組の根幹を崩した以上、続けるべきものはない」という意味だ。これ以上続けても、そこにつきまとうのは「でも演出なんでしょ?」という目。出演することが悪いイメージにすらつながりかねない。

 

ただまあ番組が人気になり、その中でも特に人気の企画を成立させるために、そういうことをしてしまったという気持ちは分からないではない。「全然撮影できませんでしった」では番組にならないと考えたのだろう。しかしこの番組は「全然撮影できませんでした」も一つの結論としてアリの領域まで来ていたし、それをありのまま見せることに価値を付けることも出来た番組じゃなかったのかとすら思う。ただ目先の成果に執着し、こんなことになったのは本当に悲しい。とはいえ番組内でたまに顔をのぞかせた「うちの番組凄いでしょ、みんなほめてよ」という姿勢が、こういう結果を生んだのかなともちょっと思う。

 

なんだろうなあ、久々にテレビの話でちょっとへこんだよ。