選ばれし人間

いきなり自分の話から入りますけども、自分自身の評価が高い人間ではありません。謙遜ではなく。

 

社会的な地位も高くないただのサラリーマンですし、なにせこの歳で結婚もしてませんし(綺麗な戸籍です)、何か特殊な才能があるわけでもないですし、話は面白くありませんし、人付き合い悪いですし、人間の総合評価なんてものをつけるとすれば、まあ結構な低評価でしょう。俺ログ0.8の人間です。

 

だから自己肯定感はあんまりなく、自分がここでこうしてどうでもいい意見を垂れ流しているのも「自分の言うことなんてハナクソ程度の意見でしかない」と思っているからです。「自分の意見はまず正しい」と思っている人間は堀北真希のワキをペロペロしたいなんてことは言わないです。ただ結構な割合で「そういう人間がいる」から世の中は生きにくいんですけども。それはまあいい。

 

そんなわけで、自分が「選ばれし人間」だなんて思うことは殆どありません。しかし最近、ちょっと自分が「選ばれし人間」なんじゃないかなあと思うことが一つだけあるんです。

 

それは大河ドラマ「いだてん」を面白いと思っていることです。

 

ここまで読んで「はいはい他人が面白いと思わないものを自分だけは分かっているというよくあるクソみたいな自己肯定」だと思ったあなた、落ち着こう。

 

もちろんそう思って頂いても構わない。しかし自分が「いだてん」に対して思うことは「これは面白いと思う人間の条件が限られているんじゃないかなあ」ということだ。ちょっと説明してみたい。

 

まず「いだてん」の一番可哀想なところは「大河ドラマ」であることだ。NHKの大河ドラマは1年で歴史上の人物や出来事を扱うドラマとして定着している。「いだてん」も金栗四三古今亭志ん朝という実在の人物を描いているれっきとした大河なのだけど、どうしても現代劇の側面が強く、そして大河ドラマを毎年楽しみにしている人たちは「歴史ドラマ」を期待してしまう。もうこの時点で「いだてん」は「なんだかなあ」となってしまっているんだろう。たぶん。自分がそうは思わないのであくまで推測でしかない。

 

そして脚本宮藤官九郎にありがちな「展開がよく分からない」という批判。宮藤が「池袋ウエストゲートパーク」(IWGP)で連ドラ脚本家デビューしたのが2000年。もう19年も前の話か。IWGPは原作のスピード感と宮藤の脚本のスピード感がマッチし、当時の若者(現在アラフォーの人たち)には熱狂的に支持された。自分も再放送でちゃんと全部見た*1

 

その後色々なドラマの脚本を担当するのだけども、事ある毎に「展開が早すぎて、あるいは複雑すぎてよく分からない」という意見を目にする。いつまで言ってるのだと言いたい。もうクドカンが出てきて20年だよ。いい加減慣れろ。あるいはずーっと見てるのにまだそんなこと言ってるのならもうクドカンドラマ見るの向いてないよ。「あまちゃん」はたまたま分かりやすかったんだろうね(恐ろしいかな自分は見ていない)。けどクドカンの真骨頂って時系列を無視した縦横無尽な展開だと自分は思うんだよ。「監獄のお姫さま」なんてまさにそれだったじゃない。「マンハッタンラブストーリー」もそんな感じでしたかね。

 

けど普段大河で時系列通りにわかりやすーくやってくれているドラマに慣れている人、そもそもドラマの視聴に得手でない人(自覚の有無に限らず)には「分からない」「面白くない」と思われても仕方ないのよ。でも残念ながら自分には今回のクドカン大河の「面白さ」が分かっちゃうんだよなあ。落語パートとオリンピックパートの入り組んだ感じとかとっても面白いんだけど、それが「分からん」と言われても「はあそうなんだ」としかならんのだね。

 

これはもう、世代的なもんでしかないと思う。

 

別に自分は人より特別多くドラマを見ているわけではない。もちろん毎クール何かしらのドラマは見ているけども、いわゆる「ドラマウォッチャー」と名乗るレベルではないし、ナンシースタイルで全ドラマの初回をチェックするほどの情熱(と時間)はない。そして前述したようにクドカンのデビュー作から目をつけていた、とかいう話でも全くなく、そこらへんの慧眼があるわけでもない。けど「いだてん」は面白いと分かってしまう。それはひとえに「世代としてこのドラマを楽しめる素地が揃っている」だけなんだと思う。その理由として大きいのが「クドカンドラマのテンポ感と構成にすっかり慣れている」ことなんだと思う。

 

それに加えて「出演者の豪華さにピンと来る」こと。はっきりいってこんなに豪華な出演者の大河ってあんまりないと思う。どうしても大河の出演者っていうのは歴史の流れでいうとある程度出演できる人が限られてくると思うんだけど、現代劇であり女性の出番も多い今回の大河は「これでもか!」というほどに豪華な出演者だ。自分のような人間はそれだけで見ていてワクワクしてしまうんだけど、これがあんまり若いとピンとこないんだろう。

 

つまりは従来の大河ファンやご高齢の方には「ドラマが分からない」し、若い人には「出演者にピンとこない」んじゃなかろうか。しかし「中途半端に年を取っていてクドカンのドラマにも慣れている」自分のような人間には超面白い。僭越ながら「選ばれし人間(世代)」を名乗らせていただこう。もちろん商業ドラマとしては「それじゃダメじゃん春風亭昇太です)」なんだろうが、それは自分の知ったことではない。

 

だから「いだてん」の視聴率が最新回で6.7%まで落ち込んでしまったことも、裏を返せば「このドラマを面白いと思える選ばれし人間(世代)が6.7%いる」ということであり、自分はその中に入っている。なんと誇らしいことよ。気象予報士の合格率は毎回5%前後らしいが、それだけ「いだてん」を面白がれる人間は「超狭き門」なのだ。これを「選ばれし人間」と言わずになんという。

 

だからはっきり言わせてもらう。「いだてん」は最高に面白い。これでいい。所詮「いだてん」を楽しめない90%以上の人間がクドカンとNHKの傑作を理解できずにぼやいているだけだ。もちろん理解出来ているのは自分の才能ではない。たまたま「理解できる世代」に生まれた神の祝福でしかない。だからこそ言おう。ざまあみろ。理解できない己の世代と才能を呪いなさい。自分は最高に楽しめている。ありがとう。

 

 

*1:当時本放送でこのドラマをキャッチできるほど自分の感覚は鋭くなかった。あと受験生だった。現役で落ちたけども。