宿痾

しくじり先生」の保田圭をご覧になっただろうか。予告の段階でかなりイヤな予感はしていたのだが、実際見てみたら「やっぱり」という感想を抱かざるを得ない香ばしい内容だった。モー娘。をリアルタイムで見てきた人間にはどう映ったかを書いておきたい。


保田圭がどんな「しくじり先生」なのかといえば、「身の丈の合わないグループに入っちゃった先生」だという。まずはここからして自分は「?」となる。そもそも「モーニング娘。」というグループはオーディションの敗者から結成されたグループであり、その2期メンバーとして入ってきた保田にしろ矢口にしろ市井にしろ、後藤真希のように「将来を嘱望されて入ってきたエース」ではなかった。そもそも保田が番組中で述べていたような「可愛い娘たちの集まり」では全然なかったのである。


もちろん全員が全員ブサイクというわけではない。ただ今の乃木坂のような「美少女グループ」ということではなく、初期のメンバーで今でいう「アイドル」然としていたのは、せいぜい安倍なつみくらいである。既に24歳であり水商売のバイトもしていた中澤をはじめ、メンバーの殆どが「なんちゃってアイドル」だったのだ。もちろん後藤真希加入後の「LOVEマシーン」以降の華やかな全盛期においては、保田から見れば「身の丈に合わないグループ」になってしまったのかもしれないが、保田が入ったときのグループはまだまだ「身の丈」である。それなのにグループに入ってしまったことを「しくじり」だったとするようなこの言い方はいかがなもんだろう。


ただ、それでも保田が当時メンバーでビジュアルが最下位だったことは好みの問題を差し引いても仕方のないことではある。つんく♂の「LOVE論」にも書いているが、モー娘。は可愛い娘の寄せ集めを狙っていたわけではないのだ。保田の役割はその歌唱力。保田がビジュアルの一翼を担う存在とは考えられてなかったのだからしょうがない。そのラインで比べる意味がないのだ。


また、保田が番組中で触れていた「一生喋るな」というエピソードも、有名な話。当時モー娘。のマネージャーをやっていた和田薫の言葉だ。事の顛末は保田の口から語られた通りであるが、当時の保田の状況から見て、和田の発言は「至極まっとう」なのである。和田がどのような人物かという知識もなしにあのような発言だけ取り上げるのはやっぱり誤解を与える。もちろん番組で和田の人となりを説明できないのは仕方ない部分ではあるが、意図的に悪い引用をしているよなあとは思うわけで。*1


そんでまあ「いじられキャラ」に開眼した保田。ライブで投げキッスをすると観客が吐く、という映像が紹介される。これだって「『うたばん』で石橋と中居がやっていたものを模倣するお約束」という紹介をするべきじゃなかったのか。保田も番組中で「うたばん」に触れ、「貴さん(石橋貴明)と中居くん(中居正広)には感謝している」というコメントがあったのに、なぜここの情報を端折るのか。保田のキャラを語る上で「うたばん」という番組は不可欠であり、他局とはいえもう少し突っ込んだ説明は欲しかった。じゃないと、いくらいじられキャラに開眼したとはいえ、なぜ保田がここまでいじられるようになったのかが理解できない。


芸能人・タレントとしての地位は確立したものの、そのことが仇で女性として見られなくなってしまったことが第二のしくじりだという保田。しかし合コンで美人の経由連絡先にされることにも、酔って寝てしまったまま放置されても心を折らずに頑張ってきた結果、アイドル時の実態を知らなかった現旦那に巡り合い、幸せな結婚をしたという保田。めでたしめでたし、となる。なるが、だ。


保田は言う。「人それぞれその人にしかできない役割が必ずある」と。全くもってその通りだ。保田はモー娘。という巨大になったアイドル筐体において「オチ」という重責を担った。メインにはなれないがサブという役割をしっかりと担ったのである。これに関してはもう「しくじり」でも何でもない。保田の「偉業」なのである。


さらに保田は続ける。「最下位(ビリ)の自分でもきっと誰かの一番になれる」と。なんて感動的な言葉なのだろう。グループの中の、アイドルとしての一番にはなれなかったが、愛する旦那の一番になれたことが最上の幸せなのだと。モー娘。の曲「I WISH」の歌詞ではないが、「すべていつか納得できるさ」ということだ。


けどね、保田はこの締めのちょっと前に、乃木坂46で端っこにいる高山一実に対してこんなことを言ってるんですよ。

「必ず見てくれている人はいますし、ま、ちょっと時間がかかってもいいと思います。だって私を見てください。一番ね、目立っていたのは安倍なつみ後藤真希です。でも、(この番組の先生として)教壇に立っているのは保田圭です!」


わたしゃ震えましたよ、この発言に。やっぱりそこかい、と。


保田のこの発言は、今現在乃木坂で端っこにいる高山に対する「あきらめないで」という真矢ミキ*2ばりのエールである。しかし、裏を返せば「アイドルとして成功したのは安倍や後藤かもしれないが、今現在芸能人として、またひとりの女性として成功しているのは紛れもないこの私だ!」と高らかに宣言しているわけです。よくよく考えると、いやよく考えなくても恐ろしくないですかこの感覚。どうですか。自分だけですか。


そりゃ保田にとってみれば今まで散々苦汁を味わってきて、ようやく花開いたわけです。そりゃ保田じゃなくたって浮かれるし、心の中でそう思っていたって別にいいんですよ。けど、最近の保田をテレビで見る限りでは、この「人生の勝ち組だよ私は」感が非常に強くて、あまりいい印象を持たないんですね。すべて態度に出てしまっている。ブサイクなカップルが今までそういう経験がなかったために公共の場で必要以上にイチャイチャするのと同じような感覚。自分はいいんだろうけど、他人からすれば嫌悪の対象だ。


百歩譲ってそれが態度に出てしまうことも許そう。今回の番組で自分が「しくじった」先生だと名乗ることも大目に見よう。しかし、最後の最後で「私は勝ち組」を何のオブラートにも包まず堂々と宣言してしまう。これはもう、ちょっと何か「アイドルという競争地獄にいた者に一生付きまとう、比較という名の逃れられない宿痾」を垣間見た感じがして、自分は悲しくなりましたよ。


そりゃ安倍さんは未婚ですし、「水曜歌謡祭」でクリスハートとデュエットしてますよ。後藤さんは弟は前科者だし、一般人と結婚してゲームばっかりする生活送ってますよ。矢口さんに至っては口にこそ出さなかったものの完全に「しくじり先生」ですよ。話題にすら上がらなかった矢口ともう一人の同期である市井さんだってなかなかの「しくじり先生」ですよ。加護ちゃんはどうだ?それに比べたら保田さんが、OGの中では現時点で「相当な勝ち組」であることは誰の目にも明らかです。なのに、それを言うか。今言うか。それは下品じゃないか。スタジオの感動の空気が自分は信じられなかった。


「最下位(ビリ)の自分でもきっと誰かの一番になれる」なんて言ってましたけど、本当に一番になりたいのは「誰か(旦那)の一番」ではなくやっぱり「メンバーの中で一番」なんでしょうな。アイドルの、保田の業の深さだよこれは。

*1:それよりも和田がハーモニープロダクションにおいて最初に手掛けたEE JUMPの「しくじり」のほうが番組によっぽど相応しいと思うので、和田社長、出てくれないですかね?

*2:改名してカタカナになったらますますミキティ感が増したな、と書いてみて思う。非常にどうでもいい注釈