高すぎるハードルの末路

福田彩乃出演の「情熱大陸」。近年稀に見る居たたまれない感があった。


福田彩乃というタレントは嫌いじゃない。あれだけ悪意のある(と本人が認めるかどうかはともかく)綾瀬はるか長澤まさみのモノマネが出来るのはステキなことである。「可愛いだけ」のタレントとしては食えなくても、「美人モノマネタレント」という2翻乗った形であれば充分食っていける。ただ「新モノマネ女王」というにはちょっと大げさかもしれないとは思うが。


今回福田彩乃に与えられた取材は「生放送で2013新作モノマネを披露し、twitterで感想を集める」というものだった。もうね、これだけでかなりキナ臭いんですよ。多少は売れているんだろうが、なぜに今福田彩乃なのか。そしてなぜわざわざ「情熱大陸」で生放送でモノマネ披露なのか。頭の上に「?」が50個くらい浮かんでしまうわけで。さらに披露するモノマネが常盤貴子だという。いまさら常盤貴子とはなにゆえ?頭には「?」しか浮かばない。


福田彩乃激押しは実はこの番組からではない。前番組からの「日10演芸パレード」から始まっている。女芸人特集として福田も出演していたが、正直自分には南海キャンディーズ山里のモノマネをする花香よしあきが面白すぎてローラのマネをしていた福田は殆ど記憶にない。けど思えばここから情熱大陸押しの流れだったということは想像に難くない。あと「演芸パレード」ついでに語っておくと、西村ヒロチョ押しは無理があるんじゃないか。いや1回見るぶんには「おお、こんな芸人もいるか」と思ったが、2週連続で見せられたら「ああ、もういいな」とふつうに思ったぞ。


それはともかく福田。情熱大陸では常盤貴子のモノマネをやると決まってから、常盤が出演していたドラマのDVDを見て研究したり、それをどのようにモノマネにまで持っていくのかという「モノマネ制作過程」がこまかに放送されるわけだ。いわばモノマネの種明かしをしているわけだけど、このあと披露するモノマネの手の内というか「こんなんやりまっせ」というのを見せられているわけだ。こんなもん見せられてこのあとモノマネでどう笑えというのか。笑えるわけがない。「新モノマネの女王」「新作を生放送で初披露」「モノマネ制作過程の公開」と、ここまで上がりに上がったハードルで披露されたモノマネはどうだったか。


普通。


いや似てるとは思いますよ。似てます。けど、似てるだけだよねやっぱり。「わー」より「おー」の反応。当たり前じゃん。だってやること知ってるし。あらかじめ見せられてるし。結局のところ我が子の学芸会を見守る親のような心境にしかならんでしょ。あんなもの。


「見る前から結果は分かっていたんだけど、こんな無謀すぎるハードルの上げ方をされて笑いをとるなんてことは出来ない。企画したほうも企画したほうだし、挑んだほうも挑んだほうだなあ、結局なにがしたかったのかなあ」という感想が自分の頭の中で8割方完成したところで、事態は急展開を見せる。


それは現在TBSで放送中のドラマ「とんび」に出演する常盤貴子のモノマネを、本当に何の前触れもなく、しかも衣装まで急に変わって放送し始めたのである。


これで全ての謎が解けた。要するに「これがやりたかっただけ」だったんだろう?


福田彩乃常盤貴子のモノマネをやらせて、「とんび」の遠回しな宣伝。流行り言葉で言えば「ステマ」ってやつかい。そう考えれば合点がいくもの。いま福田彩乃な理由。いま常盤貴子な理由。生放送で高すぎるハードルを課してモノマネを披露する理由。
結局のところモノマネが面白かろうがそうでなかろうが関係なかったということ。だからこそのあんな無茶な設定。福田彩乃が「とんび」の常盤貴子を披露すればそれで事足りたのだ。こいつが放送したいがために色々口実を並べたんじゃないか。「常盤貴子さんのモノマネをやるという条件で出演しませんか」なんて甘い囁きがあったんじゃないかとかすら思ってしまう。


ここまでくれば「あれは本当に生放送だったのか」ということすら疑問がわいてくる。生放送にしてはちっとも臨場感が感じられない無機質な編集。唐突な衣装チェンジ。あの感想ですら本物かどうか怪しい。もちろんここまで疑うのは勘繰りすぎのような気もするんだが、生放送の必要も証拠も何一つないのだ。twitterの感想なんていくらでも捏造できるし。


福田彩乃が生放送でモノマネ披露」も相当に香ばしい企画ではあったが、その末路はもっと香ばしいオチが待っていたとは。とりあえずそろそろ今年も1月が終わろうとしているが、現時点で「2013年最大の問題作」であると言っておこう。