谷間に目が行く男の悲しい性

「悪魔の契約にサイン」の渡辺直美逆ダイエット企画に不満あり。


昨今の女芸人ダイエットブームに逆行する「1週間で10キロ太る」という企画。女芸人のダイエットを煽っているのがTBSならば、この番組を放送しているのもTBS。他局がイヤミを多分に込めた意趣返しにこういう企画を立てるのは分かるが、思いっきり身内から批判めいた企画が出るのが面白い。まあ製作班が違うとこういうことも起こってくるんだろう。自分は断然後者支持。


ダイエット企画であれば「痩せる」ことが企画の主眼となるわけで、女芸人が「痩せる」ことそのものより、「いかに痩せるか」が重要になってくるわけだ。視聴者としては実際問題女芸人が痩せたという結果を見たいのではなく「どうすれば痩せられるか」を見たいわけで、痩せるという結果を当然の帰結として過程を重視する。ひいては自分のダイエットに生かすためである。


一方で滅多にないけど「太る」企画は、もう単純に太ればよい。太るために様々な方策を尽くすのではなく単に「大量に喰う」というだけで、過程そのものに興味はさほど持たれない。太るということに関して様々な方面からアプローチがあってもよさそうなもんだが、もう何の根拠もなく「喰う」だけ。あ、今回は一応目標体重になるための必要カロリーだけは出されていたか。


おそらく「太ること」を目的にテレビを見る人というのは存在しない。多くの人は何をしなくても太っていくもんだし、何をしても痩せるような人は「太ろう」という発想でテレビを見ることはない。だから当然の帰結として「太る過程を見せる」という点で「どのようにすれば太るか」という情報を付与する必要はない。


だから、「過程を追いかけて結果を紹介する」というスタイルは同じでも、「痩せる」のと「太る」のでは番組のつくりがまるで違わなければならないだろう。「痩せる」ほうは結果を重視しつつも過程で見せなければならないが、「太る」ほうはもう完全に結果重視。過程に見せるべき情報がないんだから、結果が全て。


にも関わらず、結果が出なかったこの番組は無理やり「過程重視」に着地させた。


結論から言えば渡辺の体重は測定前の89キロから94キロの5キロ増しかならなかった。目標の半分の値である。もちろん失敗。生計測が行われたスタジオでは「(頑張ったけど)全然ダメだな」という暖かい空気で終わっていた。ちょっと待て。この番組は「悪魔の契約にサイン」である。目標が達成されなかった場合のペナルティはどうした。


最初から番組を見ていた人は不審に思ったかもしれない。渡辺の契約内容は出たのに、契約が達成されなかった場合のペナルティが登場しなかったのだ。これ、もはや番組のコンセプトから逸脱している。最初から単に10キロ太るだけの契約だったのか?


答えは「NO」である。手持ちの「週刊ザテレビジョン」の番組紹介には「もし10キロ太れなかった場合は1週間の食事代金は自腹」というペナルティが記載されているのだ。だからこそ渡辺は初日の深夜に高級ステーキ店で高額なステーキを食べさせられたのだ。太れなければ自腹になるからこそリスクがある高級ステーキ。じゃないと彼女が高級ステーキを食べる意味がない。ただ単に太るためなら高級かどうかは問題じゃないのだから。


この点をぼかしたせいで、すっかり番組の焦点もぼやけてしまった。ノーリスクでただ美味いものをたくさん食べるだけの渡辺。食べるのがつらい素振りは一切なかったし(途中の涙は「ネタがすべったことが原因」と本人談)、つらければやめることも出来た。それも全て「ダメなら自腹」という制約があってこそのルールだろう。残しても自腹なら文句はなくなる。


この番組の「面白さ」の核は、ペナルティがあるからこそ多少の無理でも頑張らねばならない点だ。渡辺だってペナルティがあるからこそ一生懸命太らなければならないのが本来だ。しかし番組は最初からペナルティの存在をぼかしてしまったために、あろうことか太る辛さを「太ることそのものが辛い」という、あたかもダイエットで痩せることそのものの辛さを見せるかのように置き換えてしまったのだ。なぜ太るかもよく分からないままに。


前述のように、「太る」という企画で過程は重視されない。なぜなら、太ることの情報に価値はないから。だからこそ「太らなければ大変だ」というペナルティを課してこそ、太る過程を見せることに意味が出てくる。にも関わらず最初から太る過程のドキュメントに最初から価値があるかのようにしてしまった。


渡辺がペナルティを受けることに何か問題でもあったのだろうか?そんなことはないだろう。もし渡辺が1週間分の食事代を本当に払えなかったとしても、そこは払ったフリをするくらいのごまかしはいくらでも効くはずだ。それがヤラセだといえばそうなるかもしれないが、かといって最初からペナルティがないことになり、番組のコンセプトが台無しになるよりはマシじゃないのか。


10キロという目標は立てたが痩せられなかった。だからペナルティとして自腹を切った。エンディングとして何の問題もあるまい。確かに5キロ太ったという結果は中途半端。ただ、あくまでペナルティまで遂行することが「結果」なのだから、「中途半端に増えた」というのが「中途半端な結果」ではない。しかしここで「中途半端な結果を見せても仕方ない」という勘違いをしたからこそ、急遽元々あったペナルティの存在を隠してまで、「結果」ではなく「過程」を見せることにしたのではないか?


そしてその勘違いが、見せ方として「太る過程を重視する」というダイエット番組のような扱いになってしまった。結果このVTRの何が面白いのかさっぱり分からない。ただ渡辺直美が他人の金でいいもの食べて太っただけ。下手したら他人の金で色々なダイエットを試して痩せるダイエット企画より質が悪い。なぜなら前述のように、太ることの情報は誰も求めてないから。


自らが打ち出したコンセプトを全否定するかのような訳分からん番組を作ってたら、そりゃ視聴率も落ち込む。冒頭の自虐的VTRは半分「面白」として作ってるんだろうが、あれじゃあ笑うに笑えない。個人的には一応期待しているんで、もっと奮起を願う。