初めて猿轡をした日に読む話

35も過ぎると、人生初のことって少なくなります。

 

まあ自分は人生における大きなイベント事である結婚だとか出産(親になる)だとかを経験していないので、ふつうのアラフォー男性に比べれば経験値は低いのですけども、それでも日常において「ああ、初めてだなあ」ということは少ない。歳を食うというのは詰まるところそういうことである。

 

だからこの歳で「初めてのこと」は少しドキドキする。それが猿轡(さるぐつわ)なら、なおさらである。猿轡。物騒な響き。誘拐された人が目隠しとともにやられるやつ。あるいはSMプレイでやられるやつ。誘拐の場合は手ぬぐいなんかでやるし、SMの場合は専門器具(ボールギャグ)なんてのがあったりする。

 

さて自分はいかにして猿轡をすることになったのか。

 

8/12(月・祝)。世間はお盆前の3連休。あるいは10日あたりから長期お盆休みに入っていたりして。こちとら予定では11(日)まで仕事。しかし予定外の仕事が急に入ってしまい、12日も泣く泣く休日出勤である。ファッキンサラリーマンである。

 

この日はどうしても行きたい場所があった。アリオ札幌。サッポロビール日本ハムファイターズの練習場が隣にあるショッピングモールである。ここで何が行われるのかといえば、ラジオの公開収録である。これにどうしても行きたかった。

 

今北海道のラジオ局は聴取率週間である。それを「感謝週間」という言葉に置き換え、年に2度のお祭り騒ぎだ。その一環として北海道ローカル局STV(日テレ系列)のSTVラジオがアリオ札幌で公開生放送をするというのだ。

 

中でも自分のお目当ては正午から放送される「洋二と明石の無口な二人」の生放送だ。道外でも知名度がある北海道の誇る名物アナウンサー木村洋二(現STVラジオ取締役エグゼクティブアナウンサーという偉い人)と、長年「どさんこワイド」で双璧をなした明石英一郎元アナ(現STV制作スポーツ局長という偉い人)の熟年コンビによる15分ノンストップの帯番組。昼間っから縦横無尽かつ無軌道な話題で下ネタでもなんでもこいの15分。会社のお偉いさんになった二人だからこそ許される(のか?)「無口な二人」のトークが面白くないわけがない。

 

ここでも何度か書いているが、自分にとって最初のラジオスターは明石英一郎なのである。「うまいっしょクラブ」「アタックヤング」が自分のラジオの原体験である。未だにラジオを聴いているのは絶対に明石英一郎あってのこと。大袈裟に言えばラジオ現人神です。

 

そんな明石アナ(本当は「元」であるが、自分にとって明石さんは明石アナでしかないので今後の表記もこれで統一)の生放送が間近に見れる!洋ちゃん(大泉さんじゃないほう)も見れる!仕事も休みだ!と昨日まではノリノリだったわけです。昨日までは。

 

しかしあろうことか12日も午前中だけとはいえ仕事が入ってしまい、現地に12時に到着できるかはかなり微妙。職場からアリオまでは20分くらいかかるのだけど、休日の自動車の混み具合は正直読めない。仕事が早く終わるのと道路がすいているのを祈るような気持ちで午前中を過ごし、無事11時20分くらいに仕事が終わる。後片付けをして職場を後にし、自動車を飛ばしてなんとかアリオについたのが11時50分。やればできる。

 

予め公開生放送の場所は押さえてあったので、迷うことなく生放送の場所へ。放送開始前であるが、既に木村明石2大巨頭が喋っている!もうこの時点で興奮を隠せない。アイドリングトークを聴きながら、直線状に明石アナが見える場所をキープ。生放送が始まるのを待つ。生放送1分前に一旦ステージの奥に消えるお二人。

 

すぐ放送が始まるのに消えるのはなぜなのか、といえばそれは「猿轡をするため」である。

 

先週分の放送で「ラジオの公開生放送でリスナーの証として猿轡をしてきてほしい」とのトークがあった。自分は明石アナの忠実なリスナーであり、ラジオにおける明石アナのモットーである「マジメにふざける」を体現しなければならない、という熱い思いのもと、しっかりと猿轡を用意してきていた。つまり職場に猿轡を用意していた。正気ではない。

 

ちなみに猿轡はタオルをねじれば出来上がり、という代物ではあるのだが、自分は「時間がギリギリだった場合により簡便に素早く装着できる猿轡は何か」と考え、部屋の中を探したところ、これ以上相応しいものはないというものを発見した。

 

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2012年のももクロちゃんの男祭りのLVで購入した「男の漢字タオル」だ。頭に巻きつける部分と、そのタオルを巻きつけて縛る部分から出来ている(画像のマネキン参照)。頭に巻きつける部分を口に含み、そして巻きつける部分で縛ればあっという間に完成だ。おそらくこのグッズを猿轡として使用している人間はそう多くはないだろう。

 

というわけでものの数秒で猿轡完成。番組が始まり両者が再びステージに戻ってくる。すると二人もしっかりと猿轡で登場。当然何喋っているか分からない。

https://pbs.twimg.com/media/EBvcKr1UYAMYP6k?format=jpg&name=4096x4096

STVラジオのtwitterから拝借。こんな感じでした。左が明石アナ、右が木村アナ。

 

このあと当然二人は猿轡をはずしてから喋り始めるのだけども、明石アナがしていた猿轡は赤いふんどしでした。ヒモ部分と口にする部分、という発想では自分のタオルに近いものがある。勝手にそう思った。

 

本当に猿轡をしてきた人をカウントする二人。自分の前にも男女そろって猿轡のご夫婦(おそらく)や「いかにもラジオが好きでたまらない」という猿轡の男性二人組もいた。その後ろにいた自分もちゃんと数えてもらいました。10人いました。個人的には会場が全て猿轡で埋まると思っていたので、「案外少ないなあ」なんて感じていた。

 

いつも通りのトークで生放送の15分はあっという間に終了。大満足である。

 

トーク終了後、空腹だった自分は「とりあえずメシでも買おう」と思って会場に隣接していたパン屋でパンを購入。そしてまた生放送ラジオブースのそばを通ったら、あろうことか明石アナが立っているではないか!なんでそんなところにふらっと立ってるんだ現人神よ!(注:パーソナリティを身近に感じるそういうイベントです)

 

近寄ってみると明石アナは話しかけてきたご夫婦とスマホで記念撮影をしている!羨ましい!しかしスマホは夫婦が互いに撮影しており、自撮りはちょっと失礼な感じになるかな?とか思っていたらご夫婦がいなくなり、目の前に現人神こと明石アナ。一瞬で訪れる緊張。

 

かつてももクロの玉井さんが通路側に座っていた自分のすぐ真横を通ったり、イベントのお見送りで玉井さんに笑顔で目を見られたときは完全に魂を持っていかれたことがあったけども、いやあそれと同じ感覚。だって自分にとっては25年憧れ続けたラジオスターなんですもの。緊張しないほうがおかしい。

 

それでも現人神に「自分の思いを伝えたい!」との意気込みで猿轡を見せながら「猿轡で参加できてよかったです!」と話しかけることに性交、いや成功。もう自分の中では性交と同じようなもんです(違う)。現人神は「こんなくだらない企画に参加してくれてありがとうございます」とご丁寧なお言葉!さすが神!

 

こんな自分のようなガキにもしっかり敬語で話していただけるとは、と感動したのです。てっきり自分は「いや~、ありがとね~」くらいのフランクな感じで笑ってくれると思っていたのだ。しかしよくよく考えたら、現人神から見れば自分もしっかりとしたただのオッサン。社会人として一般的なオッサンに対するごく普通の対応だったのだと気付く。どうしても明石アナの声を聴いている自分の気分は中学生のままなのだ。自分の見た目と年齢をその瞬間錯誤していた。

 

そんなやり取りの後、握手をしていただきました。一生の思い出です。いやマジで。堅く握っていただいた掌は、しっとりと暖かかった。パワーとパッションを感じる。ラジオを通じて25年聞いていた声の元から伝わる体温。そりゃあ感動するよ。こんな人間でも感動します。ありがとう明石アナ。

 

贅沢を言えばスマホで一緒に写真を撮っていただきたかったけども、オッサンが写真に執着するのもそれはそれでおかしい話なので、そこはオッサンらしく諦める。そしてそんな未練で携帯を見ると職場から本当にしょうもない仕事の連絡。現人神遭遇の余韻もそこそこに職場に戻るハメに。休みなのに。しかも戻ってみたら先方のただの勘違いだったというオチ。喜びと悲しみは表裏一体なのだと知った2019のお盆。これで心置きなく成仏できそうです。