期待の新番組

秋から始まる「ディレクターズカット」という番組に期待している。


「演出検証バラエティ」と銘打たれたこの番組、具体的にどんなことをするかといえば、「番組として放送されたVTR」を子細にチェックすることで、このVTRにはどんな演出が施され、またその演出の結果どんな風に面白くなったのかを「勝手に」想像する番組である。


いまやテレビ番組において「やらせ」とは完全なる悪者扱いである。テレビを作っている側がそれを重々承知しているうえでいまだに「やらせ問題」が起こるのはなぜなのか。それはひとえに「やらせがあったほうが視聴者が面白いと感じる」と制作側が確信しているからであろう。化学調味料が入っていないラーメンは確かに体にいいのかもしれないが、ラーメンを食べる人が欲するのは「体に優しい」ではなく、「ラーメンの体に悪いけど美味い感じ」なのである。それはお互いの利害が一致しているからこその認識なわけで、そういうラーメンが食べたい人はそういうラーメンに文句を言わないのだ。


しかしなぜかテレビ業界だけがそうではない。やらせが入った番組のほうが面白いのは間違いないのに、「やらせはダメだ!」と声高に叫ぶ。そのくせやらせが入ってなければ「つまらん」と切り捨てる。理想は「やらせがなく面白いもの」なんだろうが、そんなもの毎週あるいは改変期ごとに提供できるかといえばそりゃ無理。簡単にいえば、視聴者は贅沢になりすぎた。


その矛盾を逆手に取ったのが今回の「ディレクターズカット」だ。この番組は「やらせを検証する」のだが、決してやらせを否定しているわけではない。やらせが登場した場面を発見すると同時に、「なぜここでやらせという名の演出が組み込まれる必要があったか」まで、子細に想像するのである。さらには「やらせがなかった場合どれだけ平坦でつまらないものになっていたか」まで考える。やらせの必然性を追求するエンタテインメントと言ってもいい。


北海道の深夜にパイロット版として放送されたものは「大家族のケンカ風景」だった。某大家族(笑)が夫婦ケンカを起こすのだが、カメラのアングルが変わった瞬間、明らかに次男の位置関係がおかしい、と勝谷誠彦が指摘する。そこから番組は「審議」に突入する。ここで「やらせ」が入ったことに異論を唱えるのではなく、なぜここにやらせという名の演出が入らなければならなかったのかを検証。指摘をした勝谷はまず「そもそものアングルで、夫婦の位置取りが悪い。カメラマンも窮屈そうに撮影しているわけで、ここでいったんケンカを打ち止めておいて都合のいい角度に切り替えたのでは」と推論。一方で関ジャニ∞の村上信吾は「いやいや違う。次男のお茶碗の内容量が減っていることを考えれば、いったんケンカが本当にあったのではないか。しかし内容や発言が放送するのにきわどいものだったので、同じ内容で再現するために仕切りなおしたのではないか」と展開。


この番組の面白いところは、決して結論が出ないこと。もちろん検証するVTRは完成品なのだから、編集の裏側を見せることはない。だからこそあくまで勝手に想像しているだけ。まあ結論が出ないのは「朝まで生テレビ!」も一緒だからそれでいいのだろう。結局この次男の位置関係がおかしかった件も、真相は分からないのだ。「ただ、それでいい」というのが優しい視点なのである。


以前にもやらせの件で書いたことがあると思うんだが、日本にも間違いなく「やらせを許容する」文化はあるのだ。ファンには申し訳ないがプロレスしかり、テレビでいえば「川口浩探検隊」シリーズしかりである。にも関わらず「やらせは悪いこと」「悪いことは糾弾」という、ある意味間違った正義が跋扈したおかげで、そのようなもの自体を楽しめる雰囲気ではないことが自分は悲しい。「わかっていて楽しむ」という態度は間違いではないはずなのだが。かつて「愛するふたり、別れるふたり」が同じ批判に晒されて終了した。しかし今では「ビッグダディ」がやっぱり人気なのだ。野次馬根性というか、人間の本来持っているであろうゲスな心がやっぱりこういう番組を暗に要求している。そんな番組を安定供給するには「やらせ」という名の演出は必要不可欠だ。ただしその一方で「やらせはやっぱりよくない」という気持ちが分からないでもない。これまた日本人の古来から感情である「自然が一番」という考え方。やらせというありのままの姿ではないものに否定的な感情があるのも理解できないわけではない。無論行き過ぎという感もあるんだが。


そういう意味で、この「ディレクターズカット」という番組は、やらせの功罪をうまくエンタテインメントに昇華しているように思える。いい、悪いではなく「必要だからある」というそのスタンス。視聴者に「賢くなれ」と言える立場では全くないが、少しでも「やらせでもテレビを楽しむ余裕」があれば、テレビそのものが少しだけ楽しくなるんじゃないかと願って、自分が勝手に想像した番組をでっちあげてみたまでなので放送されませんし検索しても出てこないので悪しからず。