禁じ手

日テレ「NEWSリアルタイム」のコーナーで放送された大食い企画で、食べた皿数に関しやらせがあったとのこと。


何が悲しくて仮にもニュース番組で大食いを見なければならんのか。こんなシンプルな疑問が頭に浮かぶ。北海道では「リアルタイム」パートは純粋なニュース部分だけネットされており、その他の部分は「どさんこワイド180」が放送されている。これは北海道に限らず地方ローカル局ならばどこも似たような状況のはずで、大食いは「東京ローカル」の部分だけで放送されている企画である。だから地方の人間にとっては「なんでニュースで大食い?」という疑問がまず浮かぶのだ。以上東京の常識に染まっている人へのちょっとした嫌味。んまあ、地方のワイド番組では同じような企画やってるわけで東京ローカルではそのままニュース番組の名前で放送しなければならないだけの話であるが。


それはともかく、大食いで皿数に関するやらせがあったというのは聞き捨てならない。


ここでも何度も書いているように、「大食い」とは純然たる「バカ」に属する娯楽である。普通はそんなに食べられないという量をいとも簡単に平らげるびっくり人間具合を「見せる」芸だ。ホットドッグ食べ過ぎて脳に血が回らなくなったのか未だに勘違いしている人間もいるが、間違ってもスポーツやらアスリートやら、そんな類のものではない。本物のスポーツ選手に失礼である。


「見せる」芸であるからこそ、本来は目の前で見るべきものである。特に大食いなんてのは目の前でバクバク食べるのを見るからこそ面白いのであり、本来はテレビで編集されたものを見たところで、本当にその量だけ食べているのかが分からない。つまりはその凄さも本当に伝わっているかどうかも怪しいものなのである。その点「早食い」は食べる(というか口に詰め込む)スピードを見せるものであり、これはテレビでも目の前でも殆ど変わりがないという意味でテレビ的ではある。自粛されてしまったが。


それでもなおテレビという媒体で「大食い」を見せることが出来るようになったのは、「本当に食べている」という作り手と視聴者の相互信頼関係によるものでしかない。テレ東が長年「大食い」という企画を根気よく温め続けブームになった結果、他局がテレ東の大食い番組に出ていた出演者を起用して大食い番組を作る。これは単に出演者タレントの貸し借りではなく、大食いの出演者が「テレ東の大食いに出た本物」という信頼の証を他局に分け与えているようなものである。たとえば、どこでも見たことないような大食いの人間を複数集めて、いきなりテレ東以外の局で企画をやっても「あれは本物か?」と疑いたくなる。そこにはまだ局と視聴者の間に「この大食いは本物です」という信頼関係が成立していないからだ。


もっとも現在ではギャル曽根という日本初の“大食い”タレントの出現により、大食い番組の在り方も変わってしまった。「いかにたくさん食べるか」という主眼から、もはや食べるのは当たり前で「いかに美味しそうに食べるか」というパラダイムシフトが起こっている。もはやギャル曽根が「本当に食べきれるのか?」などと思って大食い番組を見ている人はいないだろう。


しかし基本は前述のように「本当に食べている」という信頼(前提)のもと、大食いしている姿を映すのが大食い番組の役目。前提という信頼は誰も疑わないからこそ、前提でウソをつくようなことがあってはならない。なぜなら、長い間時間をかけて前提のレベルにまで仕上げた人たちの努力を無に帰すからである。今回の「大食いにおける皿数のごまかし」は、この前提をぶち壊す重大な禁じ手である。決して「やらせ」だからいけないという低い次元の話ではない。


以前「発掘!あるある大辞典?」においてやらせが発覚したときと根っこは同じだ。「あるある」のやらせ発覚以降同じような生活情報番組が軒並み潰れていったという現象を鑑みれば、「やらせ」行為そのものよりも、やらせにより生活情報番組の信頼を著しく落とした。データのごまかしという「やらせ」が問題なのではなく、「これをやれば健康に良い」という大前提をぶち壊したことが問題だった。


今回も皿数をごまかしたのは「この数字ではインパクトに欠けるから、もっとたくさん食べたことにしよう。まあ実際そのくらい三宅智子は食べられるんだろうから、それでも別に構わないだろ」くらいの軽い気持ちだったに違いない。「あるある」の時はデータの改竄をしないと企画そのものが成立しないという切羽詰った状況があったが、今回はそんな状況では間違いなくない。にも関わらずこんな事が起きたのは、これはもう下請けの制作会社が「大食い番組」がどのような性質のものなのかを一切理解していなかったからである。


「あるある」の時と違って、この改竄をしなくたって番組は成立したはずだ。単にインパクトが少し弱いだけ。大食い番組も既に飽きられた状態で、凄い数字を出さないと視聴者も驚かないという事情があったにせよ、それでも大食い番組そのものの信頼を損ねてまで改竄を行うのは、これはもう自らの首を締めまくっているハードなMプレイとしか言いようがない。しかもその自覚に欠けるという点では、「あるある」のやらせよりも質が悪いとすら自分は思う。


1億歩譲って「やらせをするな」とは言わない。必要悪的なやらせだってあるだろう。だけど、「やらせをしたらその結果どうなるか」くらいは「あるある」事件以降なんだからもうちょっと考えてもいいんじゃなかろうか。今回のは単に「ちょっとした数字のごまかし」ではなく、「大食い番組全体の信頼を根底から裏切る最悪の行為」だと誰かが気付いてもいいわな。


視聴者も飽きてきたことだし、これで暫く大食い企画は形を潜めるんだろうな。一番気の毒なのは三宅智子