いい番組内容ではあったんだが


日テレの報道特番ドラマ「オウムVS警察」がなかなか見ごたえのあるドラマだった。ドラマというよりも事実関係に基づいたドキュメントと言ってもいいような内容である。勿論この時期に放送する意味としては近日中に麻原こと松本被告の判決が下るからであり、その前に事実関係とその争点を明らかにしておくという意味でも有意義なものであったと思われる。

番組は裁判で認められた証言をもとに構成されており、オウムの側面と警察の側面からを丁寧に描写していた。もう9年前のこととはいえ、日本のみならず世界的にも歴史に残るであろうテロ事件をこのような形で記録しておくのは大事なことだとも思う。最近の日テレは何かと風当たりが強かったが、今回のドラマで挽回できたのではないだろうか。作り手の気迫が伝わってきた番組である。

しかし、褒めるべきところは褒めるが、批判せねばならんところは批判しておくべきだろう。

確かに、オウムの側面と警察内部の側面から描けば、あのような重厚かつ緊張感のある展開になったのは当然である。ただ、9年前当時、果たして日々の報道にあのような緊迫感があったかといえば、全然違っていたことを覚えているだろうか。

日々報道されるのはオウムの上祐氏の弁舌に騙されたマスコミと視聴者である。そして世間はオウムが本当に危険かどうかを定めることもなくオウムを擁護したり賞賛してみたり。もちろん批判的な態度を一貫していた人だっていたが、世間の流れとしては完全に「オウムに舞い上がったバカな国日本」である。あんまり認めたくはない事実だが、しょうがなかろう。事実だし。

そう、当時、真剣にオウムを危険視していたのはごく一部であり、殆どの人間が「オウム怪しい」とは思いつつも上祐に騙されたり、マスコミのお祭騒ぎ報道に一緒に舞い上がっていた人間ばかりだったのである。かくいう自分もその一人である。あの頃はまだ10代だったし、若気の至りであると思いたいが反省する部分もある。今思うと情けない話なんだよな、本当に。

今回のドラマには辛うじて上祐のパフォーマンスが収められていたものの、本来ならばもっとマスコミが翻弄された姿も含めて描写しておくべきだったのではないだろうか。いや、これをフィクションのドラマとして考えるなら今回の構成でも良かろう。でも、日テレとしてもこれは報道としてのスタンスで制作したドラマであるのなら、当時の空気というものをしっかり伝えるためにも、もっと当時マスコミがいい具合に利用されていたこと、ならびにそのマスコミを見て完全に踊らされていた日本人という事実もちゃんと入れておくべきだったと思うのだが。

別に現在のマスコミや日本人が賢くなったとは思わないし、過去のことを一方的に貶すというのも間違ってはいると思う。ただ、ここであの当時の危ない風潮を無かったことのように扱い、今回のようなドラマだけが残ることで、当時オウムに対して日本中がみな危機感を持っていたというような誤解が後世に残るような気がしてならないのである。当時まだ5歳とかだった子どもが今回のドラマを見て、果たして何を思ったのだろうか。少なくとも自分が予備知識なしに今回の放送を見てたとすれば、当時のオウムは凶悪であり、それに毅然として立ち向かう日本であったと判断していたはずだ。まさか世間がオウムに踊らされていただなんて思わなかっただろう。

事実を伝えることも大事であるが、その当時の空気を伝えることも大事なのだと思う。空気だけはどうしても体験しないと伝わらないからこそ、それを伝える努力をするべきだと。


ところで、麻原やってたのはワハハの座長の佐藤さんでなかったかい?エンドロールにオウム関係者は高杢以外流れなかったよね?