Mr.ボールド追悼

先日、いとしこいしのいとし師匠に続いてもうひとつのお笑いの巨星が逝った。その名はMr.ボールドである。

Mr.ボールド師匠を知らない人が多いかもしれないので簡単に紹介。Mr.ボールドは一輪車を使った芸人である。そのステージは周りの芸人から「すべり知らず」と呼ばれるほど完成度が高く、面白いのだ。そのハゲと口ひげの風貌から繰り出される毒舌トークは絶妙の間を誇っており、一度彼のステージを見たらハマってしまうことは間違いない。

そんな、師匠が61歳の若さで逝ってしまったことは、いとしこいしのいとし師匠が亡くなったのと、同じ、いやそれ以上の衝撃があった(まあ、いとし師匠の場合は結構なご高齢であるから衝撃とまではいかないのが本音ではある)。

ここまで師匠のことを誉めるのだから、よく知っていると思われるかも知れない。しかし、かくいう自分も師匠のステージを生で見たことはなく、テレビで数回見ただけだ。最初に見たのは「笑いがいちばん」というNHKの番組である。何気なしに見ていたのだが、師匠のあの独特の雰囲気に一瞬にしてやられた。もともと関西の芸人さんである師匠は、NHKの収録のため東京に来たのだが「東京の客は合わない」と普通にこぼしてみたり、一輪車に乗りながら輪投げを観客にしてもらうときに「もっとマシなやつはいないのか」と毒づいてみたり、その一言一言が爆笑を誘うのだ。

しかし、そのステージには間違いなくプロのステージがあった。いわゆる「観客いじり」の芸風であるが、そこらへんのいじりの芸風とは一線を画す非常に完成された芸である。今にして思えば、師匠に指名されて輪投げやダーツをやった人は本当に幸せ。

最後に師匠を見たのは、「笑っていいとも!」だった。なんだか、名人芸を披露するとかいうコーナーであからさまにきみまろを出したいがだけに作られたコーナーだったのだが(自分の記憶では2,3回で終了した)そこにボールド師匠が登場したのだ。しかし、いいともの限られた時間とその客ではなんともちぐはぐな展開しか行われず、不完全燃焼のまま終わってしまったのが非常に悔やまれる。あれが師匠をテレビで見た最後だった。あれを見て「なんだ、あのつまらんオッサンは」と思っているひとがいると思うと、非常に悲しい気分である。

ちなみに、ボールド師匠について全国ネットで一番よく話題になったのはナイナイのオールナイトニッポンであろう。自分はナイナイのラジオはヘビーリスナーではないが、たまに話題にしていたという話も聞く。

また、自分もつい最近まで知らなかったのだが、ドリフターズの「ヒゲダンス」と「ちょっとだけよ」はこのボールド師匠のパクリだというのだ。ドリフの前座として芸を披露していたボールド師匠のネタを、ドリフの加藤と志村がアレンジを加えた、との話。悪く言えば盗用である。それ以降、師匠は地方の営業でネタをやるたび「パクリ」だと言われたらしい。なんとも腹立たしい話である。確かにヒゲダンスはタキシードに付け髭なのだが、あの格好は紛れもなくボールド師匠である。写真が用意できないのが残念なくらいだ。

さて、そんなドリフであるが、結成何十周年かを記念して全員集合時代のDVDが発売になるらしい。そのコント集の中にはヒゲダンスもちょっとだけよもおそらく含まれているだろう。加藤と志村は、このDVDが発売になったらボールド師匠の墓前にちゃんとこのDVDをお供えする義務があるんじゃなかろうか。

ボールド師匠、安らかにお眠りください。