文脈が読めない人たち

美味しんぼ」が話題になっておりますねえ。


ジャーナリズム魂溢れるワタクシは今週のスピリッツを購入しまして*1、当該“問題”表現のある「美味しんぼ」を読んだわけです。


福島に関する話を大雑把に要約すれば
・福島で鼻血や疲労感で苦しむ人がいるのは放射能で被曝しているからではないか(と、前双葉町長が言っている)
地震から2年以上経つが、まだ避難生活を続けている人たちがいる
・現実問題として、除染は厳しい

という感じでしょうか。まずは今回の問題でワーキャー言ってる人たちは、まず今回の連載をちゃんと全部読んだのか、と言いたくなる。完全に言葉尻だけ捕まえて騒いでないだろうか。


正直なところ、「風評被害」が出るレベルじゃないと思う。騒いでいる人が風評被害を捻出してますよね。もちろん鼻血・倦怠感と放射能の因果関係が完全に明らかになっていない以上は、自分の主張を通すために都合のいい解釈を持ち込んでいるようには思うけども、でもそれって「美味しんぼ」の常套手段なんですよね。だから普段から「美味しんぼ」を読んでいる人であればあるほど「この連載のどこに問題があるのか」が分からないような気がする。いつものことじゃねえか、と。だから自分は「普段読んでない奴ほど騒いでいる」としか思えない。普段読みの人は耐性があるんだから、この程度のことで騒ぎはしない。


風評被害」と言ってはいるが、もしこの言論を「ダメ」ということで、実際に福島で鼻血や倦怠感を感じている人、それがマイノリティであったとしても、その人たちの意見を「大袈裟に」だとしても、汲んでマンガとして発表するのはそんなに悪いことなのだろうか。実際にそう「思っている」人たち全てがウソツキなのか。


確かに前回、そして今回の連載で主人公の山岡が鼻血を流し、それを放射能の被曝が原因である、という一連の流れはセンセーショナルではある。物議を醸すのもよく分かる。そして「美味しんぼ」というマンガが有名作品であり、少なからず影響力があるマンガというのもよく分かる。けど、なぜ大勢がここまで騒がなければいけないのか。自分は逆に「福島は安全な地域である」なんて潜在的にでも思っているほうがよっぽどアレなんじゃないのか。と思うのだが、いかがだろう。少なくとも2年前にメルトダウンした地域が安全という認識が、自分にはない。


もちろん今現在福島に住んでいる人たちからすれば気分のよい話ではないだろう。しかし、何の考えもなしに今現在福島に住んでいる人たちがどのくらいいるのだろうか。ある程度の覚悟と諦めをもって福島に住んでいるのではないか、ということを海原雄山がちゃんと代弁している。本当に福島が「安全だから住んでるよ」なんて思っているか。福島を離れられない理由が、信念があるんだろうと思う。


編集部も見解を出している通り、「行政や報道の在り方について、今一度議論を深める一助となる」ことであればいいのだ。「美味しんぼ」のような見識もある、というだけの話だろう。


というわけで、福島関連の「美味しんぼ」についてはこれ以上言うことがない。ただ、「美味しんぼ」を長年読み続けている自分からすれば、今回の連載にはこんな些末なことよりもっともっと問題点がある。それは「山岡が雄山の体調を気遣うときに『親父』と呼んだだけで、妻ゆう子と後輩飛沢が『完全和解』だと騒いでいる点」だ。


個人的に、原作者の雁屋哲は福島のことにかこつけてこれを描きたかっただけじゃねえか、とすら思っている。山岡親子が完全和解した、つうのはそれこそネットニュースになるくらいに話題になったわけだが、そのエピソードを福島の大事なことを語っているときにすらぶちこんでくる。完全に物語の都合ですよね。こんな時くらい物語の進展は自重しろよ、と思うのだが、そこでぶっこんでくるのが「美味しんぼ」スタイル。自分はこっちこそ不謹慎で大問題だと思うのだが。


という意見、おそらくあまり賛同されない。でもこれは「美味しんぼを長年読んできた」という文脈から発生する意見であり、自分のように長年「美味しんぼ」を読んできた人には、案外賛同されるような気がするのだ。もちろんそうじゃない人もいるだろうが。


文脈が読めない人は外部から意見するのはいいかげんやめたらどうだろう。


伊集院光が自身のラジオにおいて「アナと雪の女王」のストーリーを「毒にも薬にもならない」と評価した。これがネットでまた話題になったわけだが、伊集院はこの話をした翌週に、「自分のようなバックヤードを持つ人間からすれば『毒にも薬にもならない』と思うのは当然だろうが」と、抑えめではあるが怒りを込めて話していた。「美味しんぼ」もこれも自分は同じ話であるように思う。伊集院光という人間からすれば「毒にも薬にもならない」のは、伊集院が自身のラジオで話している以上「前提」であり「当然」なのだ。そして伊集院本人は自身のラジオのリスナーに向けて話をしているわけで、それが「アナと雪の女王」のターゲットにされている女性たちに向けて話をしているわけではない。


それをいきなりそっちの方面から文句を言われたところで「なんで文句言われなきゃいけねえんだ」と思うのもまた当然だろう。「アナと雪の女王」をありがたがって見ている女性たちだって、自分たちが「女子会」と称して集まって話しているようなゲスな内容の話を広められて文句言われても「お前たちに話してねえよクサレ野郎」とか思うだけの話。当たり前なのである。


美味しんぼ」には「美味しんぼ」の文脈がある。「雁屋哲が左寄り過ぎて半ばギャグじみている」だとか「山岡の妻ゆう子の腹黒い感じ」だとか、その他色々。それをちょっと数回の「美味しんぼ」を捕まえて、分かったフリして叩く。幼稚。文脈どころか今回の連載そのものの内容すら読めてない。自分の考えと違うものが出てきたときに脊髄反射で叩くのはバカのやることだ。今回の連載の一番の問題点は「山岡親子の和解をちゃっかり福島にかこつけていること」だろうが。それも分からずに叩くなんて愚の骨頂。「美味しんぼ」、いいぞ、もっとやれ。自分はそう思う。

*1:もちろんももクロちゃんのグラビア目当てである