適切な処理

北海道でもそろそろ花見シーズンが終わりを迎えようとしております。


まあ北海道人の「花見」と言えば、野外でジンギスカンをはじめとした焼肉を中心に飲み食いをするというのが相場でありまして、桜が咲いていようがいまいが決行するという類のものであります。だから大雑把なことを言えば8月くらいまでがシーズンだとしても差し支えはない。


そんな北海道の花見事情はともかく、花見をしたら必ず飲みすぎて他人に迷惑をかける人間が出てきます。酔っ払って眠ってしまうくらいなら可愛いもんですが、場所に構わず吐くやつが厄介。もちろん他人の吐瀉風景を見るのも心地よくないですが、吐瀉したら当然に吐瀉物が残るわけで、その有様といい臭いといい、他人に迷惑以外かけない「不愉快極まりないもの」であります。


で、他人の吐いたものなんて誰も処理したくないわけで、屋外ならば大抵の場合が放置されるわけです。ま大部分は水分ですので、放っておいても蒸発しますし、固形物はカラスなど鳥の類がついばむこともありますし、いつのまにか処理されてしまうわけで。でも屋内だとこうはいかない。誰かが犠牲となり処理しなければならない。一番重要なのは、吐いた本人は絶対に処理しない(出来ない)ということ。処理できるくらいなら吐かないですし。ここが迷惑甚だしく腹立たしい点であります。


そういう点で、「くわばたりえの結婚」は吐瀉物と同じであります。


そりゃね、くわばた本人は「交際していた」という事実含め今まで溜まっていたものを全て吐き出してスッキリしたでしょうよ。けどその吐き出されたものを受け取ったこちらとしては、全く気分のいいものではありません。そりゃ一部吐瀉物マニア(という名のくわばたりえの結婚を喜ぶ方々)もいますけども、世の中マニアばかりではありませんから、大抵の人は困るんです。


さらにこの吐瀉物、処理が難しいんです。吐瀉物とはいえ一応「祝事」でありますから、正面きって貶すのも「無粋」であります。かといって放置しておくとますます腐臭を放っていくばかり。誰かこの厄介な吐瀉物を適切に処理してはくれないか。そう思っていると、見事に吐瀉物処理を引き受けてくれた崇高な人物が登場しました。


その名は、いとうあさこ


爆笑レッドカーペット」において、いとうあさこが自身のネタ「浅倉南38歳」の冒頭お決まりのセリフ「南、30を過ぎた頃からイライラする」に重ねて「くわばたりえにイライラする」と言ってのけた。これには笑った。


いとうあさこはいわゆるアラフォーの独身女ピン芸人。結婚できずに売れ残っていることを嘆く自虐ネタが中心。だからこそくわばたに対して「イライラする」と言っても、それはくわばたが結婚して「幸せである」という事実に対する嫉妬ゆえであるというネタとして成立する。笑いも起こる。くわばたも「私が幸せだから」と悪い気はしない。誰も不幸にならない、いわば「winwinのネタ」だ。


もしこれが別の芸人が単に「イライラする」と言っただけでは、完全なる笑いに昇華はされずにただの悪口と映る。けどいとうあさこがネタにするぶんには「魂の叫び」なのだから、もう悪口という次元を超えているし、何より悲しくて面白い。吐瀉物の処理としては完璧である。


しかもこのネタの深い(と勝手に自分が思っている)ところは、別にいとうがくわばたに対する単なる嫉妬というネタに留まらず、「単純にくわばたりえにイライラする」という自分のような人間が持っているもっと包括的な怒りをも含んでいる点にある。別に自分はくわばたに嫉妬する必要はないが単純にイライラするわけで、その怒りをも代弁してくれている。つまりは自虐ネタに見せかけたあるあるネタなんじゃないかと思うわけだ。ま、自分が思っているだけだが。


それはともかく、「くわばたりえの結婚」という煮ても焼いても食えないどころか完全なる吐瀉物で誰も得しないし関わりたくない事案を、完璧に適切に処理してみせたいとうあさこはもっと絶賛されていいと思う。いとう清掃員に敬礼!