このフィット感がたまらないよね

ブラタモリ」を見る。タイトルからして「ブラジャーをしているタモリ」のようだとはちょっと前にも書いた。


実際にタモリ倶楽部のオープニングから想像した。浅草キッド山崎樹範あたりが登場して「最近男がブラジャーするのが流行ってるんですよ」とか言うと、タモリが「オレも女装するから、その気持ちはなんとなく分かるね」とかいう話ですんなり導入部分が終わり、実際にフィッティングとか専門の人にしてもらう様子が流れ、武田広さんのナレーション部分のBGMでマリオの曲が流れたり(ブラザーズとブラジャーをひっかけたダジャレ)、最後には全員ブラジャーをしたままエンディングという一連の流れまで事細かに想像してみたが、それを書いたところでどうなるわけでもないのでお蔵入り。


実際にはタモリと久保田アナウンサー、涌井雅之(造園家)が明治神宮・原宿・表参道のあたりをブラブラして昔の川の流れを探ったり、目に付くもののルーツを探ってみたりするという、要するにタモリ倶楽部的な番組である。それをNHKがちょっとアカデミックかつ丁寧に作ったものと考えればいい。


正直な感想を言えば想像の範疇を越えるところが全くない既視感にあふれた番組だった。最初からさほど期待していたわけではないが、ここまで面白みがないとやっぱり失望感ってのはある。もちろん「面白み」というのは単なる「funny」ではなくて、「interesting」のこと。ひとつだけ分かったのは、番組を企画した人間が「タモリ倶楽部」のファンであるということくらいだろう。


勘違いしてはいけないのが、同じことを「タモリ倶楽部」でやるのは「interesting」なのだ。けど、このタモリ倶楽部でやると「interesting」なことでも、わざわざ一本の番組として立ち上げてやると、それはただ退屈なものでしかなくなる。あくまで「タモリ倶楽部」という無軌道自由空間における毎回の一本であるからこそ楽しめるわけで、タモリが自分の趣味丸出しであたりを散策するというものをメインに据えた番組は必要ないと思える。そりゃ自分だって毎回タモリ倶楽部でこんな散策ばかりやられたら見なくなる。


もちろんタモリ抜きにこういう番組が好きな人はいるだろうし、そういう方は楽しめたはずであるが、タモリという名前を冠し、自分のようにタモリが出てくるということにバリューを感じる人(これがテレビ好きにはかなり多いと思うのだけども)にとっては、ただそれだけでは面白くもなんともない。タモリが好きでもタモリの趣味まで好きという人はやっぱり少数だろう。


タモリ倶楽部」のせいで、タモリがテレビで趣味丸出しの放送をしても視聴者は付いてくるように思っているのかもしれないが、こんなものは本来なら(タモリでなければ)CS放送が関の山の企画である。つまりは同じ趣味を持った人間が興味を持って共有するというレベルの番組。


以前北海道で一度だけ「寺門ジモンの食バカ一代」というMONDO21で放送されている番組が流れたことがあった。どうやら「LOST」の間つなぎ放送だったようだが、珍しいと思って録画をして見た。これが本当にどうしようもない面白くなさ。本当にただジモンが自分のお気に入りの店でメシ食ってるだけ。


でもこれってCS放送で流れているなら別にどうとも思わなかったと思う。CSってのはそういうのが許される場所だから。よほどのジモンマニアか食通がチャンネルを合わせて見ればそれでいい。一般的な番組としての面白さは度外視される。


タモリ倶楽部」の企画も「ブラタモリ」も基本的にはこれとなんら変わりがない。ただ「タモリ倶楽部」はその存在が既に特殊であり、唯一地上波でそういうのが許される(許されるまでに熟成した)番組。しかし「ただタモリが出演している」というだけで「ブラタモリ」にはその権限はない。だから「ただの趣味垂れ流しの面白みがない番組」としか言いようが無い。タモリだから許されてるわけじゃあない。


タモリを起用して「タモリ倶楽部」でやっているような番組をNHKで流したい。その気持ちは分かる。そしてパクリとは言われない程度にそこそこ「タモリ倶楽部」的であり、さらにNHKらしさを加えたアカデミックな雰囲気も入っている番組が完成した。おそらく制作側としてはかなり理想に近い番組を仕上げたつもりではなかっただろうか。


しかしタモリを起用して「タモリ倶楽部」のようなことを他局の他番組でやってもそれは全然面白くがないという初歩的なことに気付いてないのがマズい。そこには「タモリがこういうことをやっても世間に受け容れられる素地がある」という勘違いがあるんじゃないかなあと思う。たぶん、世間にそんな素地はないよ。幻想。


うっかりこの手の番組を「つまらない」と書くと、テレビ好きの方々から「オマエにはタモリの面白さが分かってない」と言われそうで「面白かった」と書いてしまいたくもなるが、つまらないものはつまらないんだから仕方ない。同じことをやっても許される「タモリ倶楽部」はあくまで地上波における例外であると認識すべきだ。