恐怖

花王のシャンプー「メリット」のCMに戦慄を覚えたのは自分だけではないと信じたいです。


シャンプーのCMはターゲット層によってCMの質も違うんだけども、「メリット」といえばファミリー向けのシャンプーであり、最近では保坂尚輝高岡早紀夫妻(当時)や仲村トオル鷲尾いさ子夫妻が出演していた。どちらのCMも「家族で使ってます」みたいなイメージ戦略であり、シャンプーのよさを語っていたような気がする。まあ本当のところを言えばあまり覚えていない。つまりは薄ぼんやりとは思い出せるが、かといって特に記憶に残るようなCMではなかったということである。


その一方で現在放送されている藤井隆乙葉夫妻のCMは一度見たら「なんだか分からない寒気」を感じるほどの凶悪なCMになっている。


藤井と乙葉がそれぞれ生まれてきた子どもに対する思いを同世代の親たちに語りかけるという内容。CMのコンセプトとしては分からんではないが、「藤井隆が従来のオカマキャラよりも数倍気持ち悪い」のと「夫婦揃って『いかにもいい夫婦』感を今までにないくらい出している」という二点において、彼らの幸せな感じをこちらの許可なしに土足でお裾分けされているような感じがする。


不幸をお裾分けされるよりは幸せをお裾分けされたほうがいいに決まってる。しかし、お裾分けされるにもそれなりの心構えってのが必要なわけで、例えば見ず知らずの人の結婚式にいきなり招待されて「幸せのお裾分け」をされたところで何の有難味も感じないどころか、その幸せを共有出来ないことに多少の苛立ちを覚える。


今回の藤井と乙葉のCMも同じで、「いきなりCMであなたたちの子どもに関して語られてもなあ…」と思わざるを得ない。別に藤井夫妻のことが嫌いではないんだけど、「CMによって不意に語られる」のはこっちの心構えのなさからすれば卑怯でしかない。我々が彼らの記者会見をワイドショーで見て語られるのならば「そういう記者会見だよな」という心構えがあるからいいんだけど、CMは不意打ち。何の対応も出来ないまま彼らの話を聞かされるのだ。そりゃ寒気もするだろう。いくら有名人、しかも好感度の高い夫婦だとはいえ、いきなり「自分の子どもがどう育ってほしいか」をCMで言われてもこちらはただただ戸惑うばかり。


そしてこのCMそのものも恐ろしくはあるんだが、一番恐ろしいのは「こういうCMを流しても見ているほうは平気だと思える感覚」じゃなかろうか。このCMを見て「いいCMだなあ」と思える人は間違いなく何かの感覚が麻痺している。「幸せな感じ」の押し付けは時に暴力だ。いや、幸せなだけ反論しづらいから場合によっては暴力よりたちが悪い。