連帯責任


キリン「氷結」のCMで倖田來未がクイーンの「WE WILL ROCK YOU」を歌ってますな。


もうね、このCMを見た時に「やってしまったな」と正直思いましたよ。それは「倖田來未が」でも「キリンが」でも「広告会社が」でもなく、「我々日本人全員が」である。このCMの存在は日本人全員が背負うべき十字架ですよ。


CMの作り方ってのは色々あると思うんです。効果的な宣伝を打つにはどのような手段を用いればいいのか、広告会社やCMプランナーは必死こいて考えるわけですよ。商品(あるいはサービス)を宣伝するのがCMですから、普通は嫌われるよりは好かれるCMを作ろうとする。もちろん嫌われるようなものを作ることでかえって印象に残す、という手段はあるけども、基本的には好かれるものを作るし、好かれているものを起用する。



つまり何が言いたいのかといえば、倖田來未が「WE WILL ROCK YOU」を歌うことが、日本人、もっと限定していうならば「氷結」を飲む20代以上の男女に受けると世間では考えられているようだ、というのがこのCMからは何の迷いもなく伝わってくる。これが「氷結」の購買層には正解だとされているのだ。もちろんこのCMで「くぅちゃんかっこいい」とか言ってる人もいるとは思います。けど、けどね。



キツいな。キツくないですか。自分はキツいぞ、このCM。120%キツい。真夏の柔道部員の柔道着くらいキツい。


正直な話、今の倖田來未の立ち位置って無駄に高いでしょ。


そもそも「エロカッコイイ」だけの人だったはずなのに、何時の間にかAVEXの中で浜崎あゆみに比肩する、あるいはそれ以上の扱いとなっていた。もちろんレコード会社の順列が世間の順列にそのまま置換されているとは思わないけども、世間の評価もそれほど大きく違っていないはずだ。ただ、自分は倖田來未が「エロカッコイイ」だけに収まらず変な勢いがついてきた頃から「実はこれといった大ヒット曲もないのに、なんでこの人はこんなに各方面から持ち上げられてるんだろうか」と漠然と考えるようになった。そして今でも結論は出ていない。


しかし世間は自分の思考を置いてきぼりにするかのように彼女をどんどん持ち上げに持ち上げまくっていて、もはや実体がよく分からんくらいに高い位置に置いた。世間の好感度のバロメータでもあるCMにもガンガン登場するようになった。いよいよ倖田來未評価バブルの到来である。そんな中で倖田來未のパチンコだけが、彼女の「あるべき位置」を的確に評価しているような感じ(本当のスターならばその仕事はしないぞ、という感じ)がして痛快だったが、基本的には倖田來未の評価バブルは揺らぐことなく、今でも続いている。


そのバブルの極みが「倖田來未が歌うWE WILL ROCK YOU」だと言っても過言ではないだろう。倖田が唐突にCMにおいて「WE WILL ROCK YOU」を歌うという“暴挙”を誰が許したんだ。自分は少しも許したつもりも許してきたつもりもはなかったのだが、世間の倖田來未評価バブルは許してし まっていたのだ。「倖田來未ならCMで「WE WILL ROCK YOU」歌ってもカッコイイよね」という雰囲気が、世間の無言の肯定がこのCMを作らせたのである。


自分は今更になってなぜもっと前からあらん限りの力で「倖田來未ってそれほどのもんか」と叫ばなければならなかったのかと全力で後悔している。しかしもう遅い。倖田來未は「WE WILL ROCK YOU」をCMであれほど堂々と歌っている。これを止められなかったのは何もしてこなかった自分のせいでもあり、そして日本国民のせいでもある。


はっきり言えば、油断していた。いくら倖田來未評価バブルが到来していても、世間の人々は心のどこかで「ま、そうはいってもエロカッコイイ(笑)ですから」という意識をはっきり持っているもんだと思っていた。しかし、自分の見込みがどうにも甘かったようである。世間はいとも簡単に倖田來未に「WE WILL ROCK YOU」を歌うことを許容した。この罪は重い。重いからこそ、日本国民全員が背負わなければならない。連帯責任だ。倖田來未を無駄に持ち上げた後始末を、我々日本人が全員でしなければならない。


今後も暫くはこのCMが流れるであろう。しかし、こうなってしまった以上、目を逸らすことなく「WE WILL ROCK YOU」を歌う倖田來未を全力で凝視しなければならない。辛いだろう。しんどいだろう。でも臥薪嘗胆だ。欲しがりません勝つまでは。なぜ倖田來未がこんなCMやっちゃうまで我々は倖田來未評価バブルを放っておいたのか。このCMを見る度に日本国民全員が反省すべきテーマだろう。