冷静に判断してみよう

TBS「ピラミッド・ダービー」がやらせだとかそうでないとか。


自分は「ピラミッド・ダービー」を一度も見たことがない。タイトルからして「さんまのナンでもダービー」みたいなもんだろうと思っており、今回の事件で色々読むにつれ、まあそんなに間違っていなかった。であれば、もう「ナンでもタービー」でおなか一杯なので見なくていい。今後もたぶん見ない。


けどまた「やらせ」とかいう話が始まってくると、テレビ好きとしてはちょっと言いたくもなる。自分の立場としてはバラエティにおける「やらせ」という名の演出は肯定である。以前「ほこ×たて」の件でも書いたし、こんなことを書いたこともある。公平性が求められる報道番組ですら「ありのまま」が報じられることはない。編集した人間の意図が必ずあるのだ。それがバラエティになれば、そりゃ「面白くするためにはどうすりゃいいの」という意図は必ず介在するわけで、そのために多少の変更は出てくるだろうよ。


肝心なのは「演出をそういうものとして許容する」という視聴者の態度だ。何度も書いているがかつて「川口浩探検隊」で許容できた、AVの「時間よ止まれ」シリーズで許容できたことがなぜ今の地上波バラエティでは無理なのか。これだけ「マスゴミ」とか言われながらも、いまだに「テレビは絶対に本当のことを映し出さなければいけない」という観念を持つ人が多いんだろう。難しい時代である。


んで、今回の「ピラミッド・ダービー」の件については出演者であった池袋絵意知(いけぶくろえいち)氏が自分のブログで告発したものだ。それをネットニュースが「やらせ」と取り上げている。自分は「またかよ」と思いながら、当該記事と池袋氏のブログを読んだ。


まず結論から言えば「これはやらせではない」だろう。


まずネット記事の見出しが先走り過ぎだ。池袋氏は自身がVTRの編集による「捏造」で不当な扱いを受けた、とは書いている。また、収録内容だった対決に関しては「DaiGoの正解はスタッフがグルになっているかもしれない」程度の言及はしているが、一応は勝負そのものにヤラセがあったとは言っていない。「疑惑」止まりなので、サブタイトルに「やらせ疑惑も」と書いてある。しかしネット記事が取り扱っているのはDaiGoの件ではなく池袋氏が消えた件。そっちはやらせの話じゃない。


つうことはネット記事が「やらせ」という言葉を使ったのは完全にミスリードである。こういうのは良くない。DaiGoの件は検証しようもない。


ただこれで「やらせじゃありませんでした」で済む問題でもない。池袋氏は対決のアンフェアさと悪意のある編集に大変怒っている。「食べ物も喉を通ら」ず、「嘔吐きが止まらない」くらいに憤慨している。詳しい経緯は池袋氏のブログを読んでほしい。


まず、池袋氏が憤っているのは「俺の姿消されてるよ!」という部分。なぜそんなことが起きたのかといえば、自分なりに解釈すると

・収録での最終結果で池袋氏は最下位だった(これは本人がブログに書いている)
・そのため編集側が「番組を盛り上げるために池袋氏を脱落したことにしよう」となった
(ただし収録時に「脱落」云々の話はなかった。台本にもなかった)
・池袋氏が一人だけ間違った収録での「4問め」を放送では「3問め」に置換し、ここで池袋氏を「脱落」扱いにした。池袋氏も参加していた収録「3問め」を放送では「4問め」に置換し、池袋氏をCG加工で消した

という流れだろう。


ここで「やらせ」と言うには、優勝者のDaiGoが問題を知っていた、スタッフと手を組んでいた、あるいは池袋氏以外の人間が負けるように指示されていた、などの話が考えられるが、そうではない以上、やっぱり「やらせ」ではない気がする。ただの「都合のいい編集」の話になる。これを「捏造」というのもちょっとニュアンスが違う気がする。


この問題で一番のポイントは「池袋氏は結果的に最下位だった」ことなんだと思う。スタッフからすれば「最下位だったんだから脱落ってことにしてもいいじゃん」と思ったのだろうし、池袋氏からすれば「結果的に最下位だっただけで、最終問題までは自分も他の解答者と同じ点数だったじゃねえかよ」という気持ちだろう。加えて最下位になった経緯も「勝負を考えたうえでの作戦だっただけで、実力的に劣った結果ではないし、DaiGoにしてやられた」旨がブログに記されている。


もちろん池袋氏からすれば、自分の仕事に対する信頼に関わる話なので「脱落したことにしてもらっていいですか」の許諾くらいはほしかったんだろう。それがなかったのはもちろん制作側のミスというか驕りである。VTR制作にそんな余裕がないことは承知しているが、それを含めた上で、こういう事件があった以上は「驕り」と責めざるを得ないのだ。まあ今回の怒り方からすれば許可しないんだろうから、それはそれで事件になったのかもしれませんが。


結論としては「そりゃ一言くらい説明しないとマズいだろうよ」というごくごくシンプルな結論に落ち着く。特に改変を加えられたほうが不利益を被る可能性があるならなおさらだ。そりゃこんなことやってたら怒られますよ。反省はしてほしい。


ただ、それでもなお自分は思うのだ。「そんなに怒ること?」と。


池袋氏はこれを「これは単なるテレビの捏造問題ではなく、マスメディアによる虐待(モラルハラスメント)です。犯罪です。」と言う。


自分はそうは思わない。虐待?モラハラ?犯罪?何言ってるんだ。そんな大げさなもんじゃないだろう。もちろん制作側がやったことは「よくないこと」ではある。怒るのももっともだ。しかし、怒る温度が間違っている。そして怒り方が間違っている。悔しいのは分かるが、ちょっと冷静になってほしい。


VTRは「番組に都合のいい編集」はしていたんだろうが、別に「池袋氏の名誉を棄損するために意図された編集」ではないだろうよ。VTRで「池袋氏、実力不足で早々に脱落。雑魚。カス」とか言われたならまだしも、「番組の都合で脱落したことにされた」のは、自身がブログで吠えるだけで理解できるし、それだけで名誉は回復できると思うんだけどなあ。だから「こういうことがあった」と声を上げるところまではいいんだけど、それを力んで「捏造された映像の放送によって私の名誉・人権を侵害されたことに対して私は戦います。」とか言われた日には、ネット民でなくても「お、おう」と言わざるを得ない。それは力みすぎ。戦わなくていい。


そして個人的に許せないのがブログの記述のこの部分。

テレビの制作スタッフの中には(それもけっこう多くの人が)、視聴率をとるためには捏造でもなんでもやっていいと思っていますが、こんなことを続けてるから「テレビはヤラセ」と言われてテレビ離れが起きて、どの番組も視聴率が悪くなりダメになった。

こんなことを許していたらテレビは終わってしまいます。
我々が示さなければ、私が示さなければ…

いやいやいや、あんたテレビの何なのさ。どの立場からテレビを案じているんだ。テレビ側は「そんなことあんたに言われる筋合いはない」と思ってるんじゃないか?テレビ側じゃないけど自分はそう思ってるよ。「ただの私怨」を「テレビのため」と「都合よく」置き換えて攻撃するのは、もしかして意趣返しなのかな?それとも気付かずに言ってるならば、自分も「同じ穴のムジナ」だと白状しているのかな?


この文章を書いているときに頭に浮かんだのは「柳美里のサイン会」だ。脅迫電話によって一時は中止され、その後厳戒態勢で行われたサイン会。この時柳は「言論弾圧と戦う」と盛り上がったんだけど、小林よしのりに「いやいや、サイン会はただの本を売るサービスだから」と「ゴー宣」で突っ込まれた話。もちろん脅迫されたほうはたまったもんではないし、それを怒るのは分かるのだが、かといって「言論弾圧と戦う」というのは言い過ぎだという構図。今回もまさにそれ。岡目八目なんていうけども、渦中の人物は気付かなくても、周囲から見ている人間からすれば「その程度」の話じゃないのかと。


こういう争いが起きたときはユーモアのあるほうが勝ちだ。「どうせ捏造するならCGで姿を消すんじゃなくて顔をイケメンにしておいてほしかった!」くらい言えればよかったのにね。それをテレビ全体の問題にすり替えて怒りをぶちまけるんじゃあ、とても応援する気分にはならん。