120点

フジのSPドラマ「『独占初告白!250億騙し取った男たち〜急増・振り込め詐欺!蟻地獄と化す犯罪組織の全貌公開〜』」が最高に面白かったです。エヴァ劇場版なんて見ている場合じゃなかった。


振り込め詐欺の実態をドラマを交えて明らかにするというもの。現在の振り込め詐欺が完全に組織化されており、負の経済構造が出来上がっている。この現状をあくまで冷静に、そして問題点が浮き彫りになるように見事に描かれていた。以前フジは「ハンゲキ」という番組で詐欺師と対峙する、という番組を放送し自分もここで書いたことがあるが、その時と同じく、単純に「詐欺をするのが悪い!」としていないところに共感が持てる。なぜこんなことが起きてしまっているのか、を俯瞰で見つめる感じ。結論は視聴者に委ねている。


で、番組のスタンスも内容も素晴らしかったのだが、この番組の、ドラマの一番特筆すべきところは「キングコング西野主演」という点だった。手放しで褒められる。120点だ。なぜなら、キングコング西野の一番正しい使い方を提示してくれたからだ。


この作品が最終的に我々に訴えかけたいことは何だったか。先ほど「結論は視聴者に委ねている」と書いたが、もちろん制作側の根底には「詐欺が行われる社会の行きづまり」に怒りを覚えており、どうにかしてこの詐欺がなくならないものか、と考えているのは明白だろう。若者の閉塞感を逆手に取り、騙す側に罪の意識を感じない、感じさせない詐欺の構造を描くことで視聴者に静かな怒りを覚えさせたかったはずだ。そのためには徹底的に「詐欺を行う側に理があってはいけない」と思わせなければならない。言い換えれば視聴者が詐欺を行う側に共感することがあってはいけないのである。


これをドラマで表現するときに難しいのは、いくら主人公が悪い立場の人間で共感されてはいけないとはいえ、ドラマの展開を引っ張るうえである程度の魅力を有していなければならないところだ。簡単に言えば主人公に華がなくてはいけないということ。普通のドラマで主演を張るような役者では詐欺をする側に共感されてしまうおそれがある。かといって華のない役者を使ってはドラマそのものの面白さが削がれてしまう。


この無理難題を解決するのがキングコング西野だ。芸人として(好みはどうあれ)一線級の活躍をしている西野は華がある。役者としての経験は多いわけではないが、ちゃんと主演として機能していた。そして華があるくせに世間からは圧倒的に好感度が低い。好感度の低さゆえ共感しにくい。自分もこのドラマを食い入るように見てしまったのだが、最終的に西野には一ミリも共感しなかった。ちゃんと面白かったし、西野の演技も巧かったのに、である。なぜなら随所随所にちゃんと西野風味の「イラっとくる感」が入ってくるんだもの。


ドラマに引きはあるけど共感は出来ない。こんな稀有な存在が他にいるだろうか?そして西野の生かし方としてこんな素晴らしい方法が他にあるだろうか?こんな西野の使い方を発見しただけでも、このドラマの存在意義はあったように思う。振り込め詐欺の構造が明らかになるよりも西野の120点の使い方が明らかになったほうが自分にとっては衝撃だったと言っておきたい。


あと、宮川一朗太が相変わらず凶悪な顔だったのが印象的。平成ノブシコブシ徳井とかジャルジャル後藤という芸人も役者として出てきたので、エハラマサヒロが出てると思った人がいるかもしれませんが、遠藤要です。本当に似てるんだよなあの二人。


この番組、西野抜きにしても普通に良い番組だったので、未見の方はなんとか手段を尽くして見てほしいと思う。まっとうにオススメできる。そしてイラっとしながら怒りを覚えてほしい。