ゲロンチョリー

鴨川ホルモー
ネタバレありなので、公開から日数は経ってますが今後見る予定のある方はご注意を。


原作は万城目学のデビュー作。自分はいち万城目学ファンであり、原作「鴨川ホルモー」および連作短編「ホルモー六景」も既読。ただ映画は見るかどうか迷ってたのだけども、栗山千明演ずる「凡ちゃん」こと楠木ふみの再現度がかなり高く(といっても原作の表紙に登場するだけなんだけど)、「これは見ねば!」と思ってしまったことに端を発します。


でもって、見た感想ですが、「まあまあ」でした。退屈ではなかったですが、絶賛するような出来でもなかったと思います。それでも見所は随所にありました。


先に難点を述べてしまうと、やはり2時間という時間に収めるために物語の展開が早過ぎて、小説の持つ独特のテンポが損なわれている感があること。原作者の万城目本人も「(小説の)本題に入っていくまでがどうしても長い」という旨をインタビューで述べていたが、映画ではそこをあまりに引き伸ばしてしまうと観客が飽きるから、どうしてもテンポよくこなさなければならないため、省略する部分が多々出てくる。仕方ないことではある。それでも「ホルモーとは何ぞや」という本題(原作からすれば「大学生のうじうじとした青春らしきもの」がメインであり、ホルモーそのものは本題とは言い難いのだが)を、原作に割と忠実によく引っ張ったなとは思える。苦心の跡は窺える。


結末も原作とは少し違っており(そもそも17条が成立していない時点で原作とは違う)、また楠木の安倍(山田孝之)に対する恋心をより分かりやすくするためなのか、楠木が司令官として戦う描写を無くして、単に救護から戦闘になるという展開はちょっと残念。


あとは良かった点を羅列しておきます。まずキャストは抜群です。安倍を演じる山田孝之の「もったりした感じ」は見事。早良(芦名星)が帰った後にベッドの匂いを嗅ぐ仕草はなかなかのもんです。高村を演じた「へいひの」濱田岳は期待通り。ちょんまげも似合ってました。芦屋を演じた石田卓也、早良を演じた芦名星も良い。特に芦名の鼻のアップは原作どおりで素晴らしいです。


三好兄弟の斎藤祥太・慶太は鉄板すぎます。もう日本の双子の役は彼らの独壇場と言ってもいい。同じく双子の城兄弟が登場する映画「風が強く吹いている」でも彼らが演じているようで。地味に龍谷大学フェニックスの会長立花を演じた佐藤めぐみも良かった。またホルモー解説者として登場した笑福亭鶴光、京大青龍会の上回生として登場したオジンオズボーンと松竹製作だけに松竹芸人がワンポイントながらけっこういい味出していたのは印象的。


なかでも良かったのは、自分を映画館に向かわせた完全なる「凡ちゃん」楠木ふみこと栗山千明と、「スガ氏」(この呼ばれ方は映画じゃ登場しなかったけど)こと499代目会長菅原真を演じた荒川良々。栗山は原作の楠木をそのままスクリーンに照射したような魅力で溢れ、また荒川は30代も半ばなのに見事に「スガ氏」であった。実は原作のイメージと荒川のイメージはあまり結びついていなかったのだけど、映画を見たら完全にスガ氏。しかも笑いまで持っていく。間違いなく荒川がこの映画の面白さを底上げしていた。主要キャストはほぼ完璧と言ってもいいが、特に荒川良々が素晴らしかったことを強調したい。


そしてやはり小説ではイメージの産物でしかなかった「オニ」たちをCGにて再現し、実際にホルモーの戦闘風景をビジュアル化したのは褒められるべき。CG製作は「電車男」で有名なGONZO。出来も適度にユーモラスがあって非常に良かったです。連ドラでやるには金がかかりすぎるんだろうから、映画でやったことの意義はおおいにあったと。ほぼオリジナルのオニ語及びポーズも悪くないです。見終わった後「ゲロンチョリー」(潰せ!)は言いたくなる。


本来なら原作を読んでいようとそうでなかろうと楽しめなければならないのが映画だけども、やはり原作を読んでないと全体の流れとして理解しにくい点がいくつか登場したので、その点では評価は割り引かなければならないとは思う。けど原作を読んでいれば登場人物、オニ、そして京都の街並とあらゆる部分でその再現度や完成度に結構満足するんじゃないかと。スタッフロール終了後の最後のワンカットは「アビーロード」風ではあるけど、あれは原作表紙(文庫版ではなく単行本版)の再現なので原作ファンならお見逃しなく。もっとも三好兄弟がいるため、原作では4人なのが5人になってはいますが。点数としては55点くらい(原作既読ならば70点)だと思います。原作及び出演者のファンなら見て損はありません。