冷や水をぶっかけろ

ドラマ「ボーイズ・オン・ザ・ラン」を見る。85点です。


原作は現在「アイアムアヒーロー」を連載中の花沢健吾の同名漫画。2010年には映画化もされた作品。当方原作を愛してやまなく、また映画もしっかり見た人間でありまして、今回のドラマ化に関して期待2割の不安8割だったわけですが、どうやら不安のほうは杞憂に終わったようです。ちゃんと原作のテイストを守りながら面白かった。第1回は原作でいけば2巻の頭まで。田西(丸山隆平)がちはる(南明奈)とホテルから出てきてボコボコにされてるところを花(平愛梨)が助けるシーンまで。原作が全10巻なのでちょうどいいペース配分なのではないでしょうか。原作ではまだまだ登場しないシュウや安藤が登場するのも、伏線としてまことに正しい(むしろ原作の伏線の不備といえるし)。


当然といえば当然だが、原作のどぎついエロ描写こそ省略されているものの(映画版にはあったまゆみとのセックスシーン、個人的には欲しかったけどやっぱり無理か)出来る限りは再現しようという努力が感じられる。特に映画では時間の都合上ほぼ割愛されていたちはるとのラブホテルの描写が細かく再現されており、また視聴者のちはるへの感情移入を促進させるうえでもかなり有効。原作ファンは思わずニヤリとなったのではないだろうか。


また、キャスティングも思っていたよりも良い。特に南明奈の雰囲気は映画版の黒川芽衣のそれよりもハマっている。これが後半どうなるか、というのが最大のポイントであるが、それはもう少し伏せておこう。特にしほがサトエリというのは、映画版で「YOUが模範解答なんだろうけど正解じゃねえ気がする」という自分のモヤモヤを完全に解消してくれてありがとうと言いたい。


さて、ただ今回のドラマ、別に自分が原作のファンであり単に再現度が高かったから85点という点数をつけているわけではないのだ。それをこれから説明していきたいと思う。


自分は以前twitterで「主演がジャニーズなのは厭だなあ」と呟いた。もちろん原作の田西という人間のダメさをジャニーズという「かっこいい側の人間」が演じるということに完全に「かっこよくない側の人間」である自分からすれば反感があったことは包み隠さず表現しておきたい。ただ、関ジャニ∞というグループがジャニーズの中では異彩を放つ泥臭いグループであることは一応理解しているので、原作の泥臭さをブチ壊しにするようなドラマにはならないだろうし、しないだろうとは思ってはいた。でもやっぱりドラマを見てみるまではその不安が拭えなかった。それゆえの前述の不安8割だった。


丸山だけではそこまで心配はしていなかったが、もうひとつ自分が気になっていたキャスティング安藤龍、それは丸山と同じくジャニーズ、しかも「KAT-TUN」の上田竜也だった。確かに原作を読めば上田の雰囲気は安藤っぽいので、キャスティングそのものに文句があるわけではないのだが、「ジャニーズのグループから2人も出演している」ことそのものが不安の種。何ゆえの不安か。それは「この2人を目当てにドラマを見る女性視聴者に内容を寄せてくる可能性」に対するものだった。


ここからは偏見バリバリで書くので、ジャニーズファンの方は気を悪くせずに読んでほしいのだが、まず間違いなく断言できるのが、彼ら目当てでドラマを見る方々は間違いなく原作を読んだことがない。それはお目当ての女優あるいはアイドルが出演するから、という理由で見るドラマを自分がちゃんと原作までチェックするかといえば絶対にしないからだ。当たり前。


だったらこの二人目当てでドラマを見る視聴者に迎合するかのようにドラマの内容を改変したってさほど問題がない。なぜなら物語の過程も結末も知らないから。メインでこのドラマを見てくれる層向けのドラマにすることがある意味最大の「ファンサービス」であり、原作モノのドラマというのは度々そのような現象が起こる。彼らを応援するメインターゲットはどう考えても10代から20代の女性。腐敗臭を放つ人間ドラマを原作の表層の「恋愛ドラマ」だけ掬い取って吐き気がするような物語に仕上げることも出来たわけだ。


でも自分は1話を見て、たぶんそれは起こらないんじゃないかと思えた。完全な主観ではあるものの、自分にはドラマの作りが自分の想像以上に原作をリスペクトしているように思えたからだ。これだけしっかり作りこんであれば、このあとのちはるの「This is bitch」っぷりが想像できる。ファンには申し訳ないが南明奈にはそうなってもらうしかない。もちろん自分が前述したような吐き気のする恋愛ドラマになる可能性がゼロではない。ただ、走り出した以上、田西のブザマすぎる姿を願うしかなかろう。


この期待だけでは自分の点数は60点だ。じゃあ残りの上乗せ25点は何か、という部分。これは完全に自分の期待でしかなく、おそらく制作側の意図するところではないだろうが、書き記しておきたい。


それは、「あまりのドラマ展開に嫌悪する女性視聴者が発狂するのを嘲笑う制作側の志」の期待値25点だ。このドラマ(つうか原作)はジャニーズファンの女ども(と敢えて表記させていただく)がミーハーな気持ちで見ていいドラマではない、と自分は思っている。自分はこの原作が持つ作者の女性に対する偏見に満ちた怨嗟に大きく共感するわけで、そもそも女性に共感できる部分はないと思っているし、女性が見ても面白くもなんともないと思う。正確にいえば原作では最低の女として扱われているちはるに共感する女性がいないではないだろうが、田西に共感できる女性なんかこの世に存在するのだろうか。


勘違いしてもらっては困るが「モテキ」のような話では全くない。ただひたすらに「男の無様さ」を見せつけられる話なのだ。モテキは女性にも描けるが(というか作者が女性だが)、ボーイズオンザランは男性にしか絶対に書けない。だからこそ男性の魂を無駄に揺さぶるのだ。どちらが優れている、という話では全くない。


けどそんな話とは知らずに女性たちは見るでしょう。んでもって第1話だけ見たら「田西とちはるの恋の行方はどうなるんだ」とか「がんばれ田西」とかなりますわな。ええ、それは原作のファンが2巻までに辿った道でありますよ。しかし3巻で読者ともどもどん底に突き落とされ、4巻で雄叫びをあげ、5巻で涙するのです。でもこれは完全に男目線。女性が原作を読んでどんな感想を漏らすのか想像もつかない。それがジャニーズが出演しているドラマとなったら、それはもう全く未知の世界。


だからこそドラマは視聴者に寄せてくる可能性がある。けども自分がドラマの第1話を見る限りでは、寄せてくる様子はなかった。ということは第5話が放送されるあたりでドラマの女性視聴者はどんな感想を漏らすのか。興味深い。番組BBSを見る限りでは10代の女の子が無邪気にドラマを見てやれ「かっこいい」だの「頑張れ」だの書いている。KAT-TUNファンに至っては完全に見当違いな感想まである。片腹痛い。


ぜひともドラマの制作側は、こんなキャピキャピしている感想を書いている女性たちの度胆を抜いて冷や水ぶっかけるような刺激的な展開、つまりは原作に忠実にドラマを作っていただきたい。そしてBBSには非モテの男性からの称賛であふれんばかりにしていただきたい。もちろん趣旨が違っていることは自分も分かっている。しかしこの原作をドラマとして扱う以上、目指す頂はそこしかないのだ。すべての女性ファンに冷や水を。原作を読んだ男性たちが味わったカオスをドラマで再現し、出演者目当てでこのドラマを見たことを後悔させてはくれないか。


ドラマ制作側がジャニーズを起用したことに反して、ジャニーズファンの女性たちに冷や水をぶっかけるような展開に。そんな製作者の誠実ながらもドSすぎる志があるとするならば、自分はその点にプラス25点を与えざるを得ない。製作者側というかもう完全に自分の願望でしかないが、このドラマならきっとそれを果たしてくれると信じている。