日本一遅い感想

世にも奇妙な物語20周年スペシャル・秋〜人気作家競演編〜」の感想を、いまさら。だって今日見終わったんだから仕方ない。

もはやこの時期にネタバレもクソもないと思うんで、まあ興味のある方だけ読めばいいと思います。もう忘れているような気はしますが。

厭な扉

江口洋介主演。京極夏彦原作。借金苦から家族を捨てた主人公(江口)は、ある日かつての同僚に出会い、残してきた家族が心中を図って死んでいたことを知る。全てを失ったと思い飛び降り自殺をしようとした矢先、噂で聞いた謎の男ニイミ(笹野高史)が現れ、永遠の幸せを手に入れないかと持ちかける。その誘いに乗った主人公はあるホテルの一室で銃でこれから入ってくる男を殺し、その男が持っている鞄の中の大金を手に入れろ、という。ただし一年後に同じ額を鞄につめてまた戻ってこいという。男はその言葉を実行し瞬く間に大金持ちとなるが、一年後その場所に戻ってきた主人公は、一年前の自分に殺され、そしてまた同じことが繰り返され「永遠の幸せ」を手に入れることになる。


この話はどうも「世にも」的に考えてしまうとただの無限ループというありがちなオチという評価になってしまうのでしょうが、京極作品を一度でも読んだことがある人なら、ここに京極夏彦の「意図」みたいなものを感じてしまいますよね。ずっと同じことが繰り返されることが「幸せ」なのだろうか、と。ループは極論にしてもそうじゃないだろ、ということが「厭」という言葉の根底にあるような気はします。ただ、「世にも」というドラマはそういう含蓄を排除して「ただ単純にドラマとして面白い」ことが主眼であるので、やっぱりこのオチだけでは弱いんですよね。最後に笹野がもう一言添えてくれればまたちょっと違ったのかもしれない。

はじめの一歩

大野智田中麗奈主演。万城目学原作。「まずはじめに」が口癖の男(大野)は、彼女(田中)に愛想を尽かされそうになる。しかしそこに突然現れた神様(伊東四朗遠藤憲一)によって「まずはじめに」の口癖を忘れさせられる。それからというもの仕事も順調で、最終的にいは彼女にプロポーズ。無事恋が成就する。ただ、この「まずはじめに」の口癖を忘れさせるよう頼んだのは彼女のほうであり、彼女の恋愛が無事成就したのであった。


文章に起こすと、いや文章に起こさなくてもどうという話じゃあないんだけども、万城目学作品の独特の雰囲気を短時間じゃ醸すのは難しいわな、とは思う。好きな作家だけになおさら。世にも的な分類では「相手が」パターンですわな。

栞の恋

堀北真希主演。朱川湊人原作。戦後に酒屋で働く主人公(堀北)は、タイガースのサリーに似ている男性に恋心を抱く。そんな彼が古本屋で読んでいる本に挟んであった栞で交換日記のようなことを始める。やりとりは頻繁に行われ、いよいよ恋心も高まるが、あるときその男性の本性を知ってしまいひどく傷つく。しかししおりに書いてあったイニシャルとその男性が別人であることに気づき、イニシャルの男性はその本の作者であることに気づく。ただ、その男性は戦中に特攻で亡くなっており、時空を超えた文通であったことに気づく。


話としては過去作「過去からの日記」に非常に似ているのだが、前者があらかじめ過去からの日記だということを知るのに対して、こちらは最後まで知らなかったという違い(というかそこがオチ)なので、まあいいんじゃないだろうか。それよりもサリー似の青年を好きになるといっておいて古本屋の店主で本物(岸部一徳)を登場させるのは反則。話のバランスを大きく損なっている(いい意味で)。しかし堀北真希は昭和が似合うな。別に顔立ちが昭和というわけではないんだけどなあ。稀有。

殺意取扱説明書

玉木宏主演。東野圭吾原作。ある日会社で「殺意取扱説明書」なるものを見つけた主人公。仕事のアイディアはおろか彼女まで奪われた同僚(塚本高史)を、マニュアルに則って殺そうと決意。マニュアルに翻弄されながらもいざ殺そうとするが、同僚の態度に翻意する。しかし同僚も主人公同様に「殺意取扱説明書」を読んでおり、見事返り討ちを食らって殺されてしまう。


世にもの常連作家でもあり、日本を代表する作家東野圭吾の作品。設定の突飛さからオチの決まり具合まで、「さすが」の一言。オチはいわゆる「相手も」パターンなので読むことは容易なのですが、やっぱり世にも的な話の王道を見事に突き進んでいる王道作品には「さすが」の一言なのです。しっかし玉木宏は情けないイケメンをやらせたら見事だな。

燔祭

広末涼子主演。宮部みゆき原作。最愛の妹を殺された男(香川照之)に近づく念力で発火させる能力を持つ主人公(広末)。証拠不十分で釈放された連続殺人犯人を燃やそうとするのだが、男は「それでは自分たちも殺人犯と変わらなくなってしまう」と殺害を拒む。主人公は男性の前から姿を消すが、数か月後起きた事件の釈放現場で、犯人は燃えることになる。


完全にストーリーの説明を放棄したような文章。もともと宮部みゆきの代表作のひとつでもある「クロスファイア」の前日譚
にあたるらしく、単発で見たところで「ちょいと不思議な切ない話」になってしまうようで、個人的にどう解釈していいのか微妙なところではある。ただ、この放送を2か月寝かせてから見た自分には明確に面白ポイントがあった。


殺された妹が男に対して修学旅行のおみやげとしてキャンドルを買ってきており、広末はこのキャンドルに対して「復讐が終わったら妹さんのキャンドルに火を灯すから」と男に対して告げるシーンがあった。事実この約束は守られ、最後に犯人が発火したあと男が自宅に戻ると妹のキャンドルのみが点灯しており、男が見ると同時にふっと消えてしまう。これは主人公が約束を果たしたという意味であり、非常に切ないシーンではある。事実これがリアルタイムで放送されたとき(10月4日)は感動的なシーンだったはずだ。


しかし今見た自分にはこのシーンがまるで別のものに映る。もちろんこの文章を今読んでいるみなさんはお気づきであろうが、広末はこの放送があった5日後の10月9日に、キャンドルアーティストのcandle JUNEと結婚を発表する。なもんで、自分は広末がキャンドルをともすとか言い始めたところでもう面白くて仕方がなくなってしまい、話なんて正直どうでもよかった。一回だけでも笑えるのに、物語の印象を深めるためにもう一度同じセリフ流された日には堤防決壊。ドラマの作り手の意図とは全く関係ないところで面白すぎた。


広末も広末で、このドラマを撮影しているときに何を思っていたのか。それが一番奇妙な気がする。


全体を通してみれば、作家とのコラボといえど、いつもの「世にも」です。逆にネームバリューによって期待値が高くなったぶん「あれ、いつもと変わらないじゃん」というがっかり感さえ生んでいるような気さえする。毎回毎回全面には出してないけども、有名作家の作品はまぎれているんだから言わなきゃいいのに、とは素直に思った。


あとOPのCGが全面リニューアル。黒猫タモリの味わいが惜しいが、フルCG時代に見合った素晴らしい「奇妙」な映像に仕上がってました。春の感想は夏くらいに書ければいいかな、と思います。