同情するなら金をくれ

なにやらSPEEDがまた「24時間テレビ」で復活するとか。


これで3度目の復活だ。解散したのが2000年だから、8年の間に3度も復活したことになる。オリンピックより早いペースだ。それでも前回の復活が03年だったから5年もの間よく大人しくしてたな、と言ってもいいくらいだ。01年、03年と解散して3年で2度の復活をしたときは「再結成詐欺じゃねえか」と思っていた。


SPEEDというグループはアイドルグループでは珍しく引き際を誤らなかった。解散時は決して全盛期の勢いがあるわけではなかったが、それでもまだ人気は十二分にあったわけで、「余力を残しての発展的解消」という印象があった。ただ解散の翌年、さらにその2年後と立て続けに復活したという状況が、その貯金を使い果たすにも等しい切羽詰った感を見せてしまった。それでも最初の復活は一夜限りだったし、2回目はツアーをやったとはいえ限定公演。あくまで再結成はイベントであるという赴きがまだ見られた。


しかし今回は違う。かなり本腰入れての「再結成」らしい。


24時間テレビのための単発の復帰ではなく、来年以降も活動を続けることを匂わせていること。新曲を出すだとかツアーを行うだとかいう具体的な計画が発表されているわけではないけども、来年以降の活動を示唆するからにはこれらの動きがあるのだろう。ただ、解散したグループの再結成は再結成そのものがお祭り的イベントであり、その祭りの要素に惹かれて盛り上がる側面がある。だから再結成して新たな活動をどうこうするのを本当に望んでいる旧来のファンってのがどれくらいの規模でいるのかは怪しいもんだ。


そして一番引っかかるのが、復活に関して今井絵理子が長男の聴力障害をカミングアウトしていること。


これに関しては24時間テレビが絡んでいるので、一概に悪し様に言うことは出来ないだろうが、それでもこちらの「言いたくなる」要素を充分に含ませている。今回の再結成のそもそものきっかけが9年前に「24時間テレビ」で知り合った女性に再会するという企画を同番組が持ちかけたことらしい。全員が揃うなら再結成しちゃおうか、という話になっての「24時間テレビ」復活という流れ。


この流れであれば「単発の復活」であるのが妥当であるのに、なぜ長期復活することをこの時点で発表しているのか。そしてなぜ今井絵理子は「本来は何の関係もない」息子の聴力障害をカミングアウトしているのか。解せない部分が見え隠れする。


そりゃ、24時間テレビの「障害を持つ人々への支援と理解」という理念からして、今井が長男を先天性の聾者であることを発表することが、聾者に対する理解に繋がるという考えは理解出来る。しかし今回24時間テレビで集まった理由とは本来関係がない。関係がないのに、無理やり「障害繋がりで」と押し込んだのでは?という邪推すらしたくなる。


要するに何が言いたいのかといえば、「24時間テレビ」が障害者に対する支援をしている番組であることをダシに、自分の息子が聾者であることを利用して、再結成の目玉にしたんじゃないかというだけの話だ。話のピースがちゃんと繋がっているならまだしも、話にあべこべの部分があるのでどうしてもこう考えざるを得ない。


聾者の子を持つ親の気持ちとして、今井絵理子の言わんとしていることは分からんわけではない。歌の聴こえない息子にせめてパフォーマンスをしている姿を見せてやりたい、と。美談ですよ。間違いなく美談。しかし、その美談を切り売りする姿は醜くないか。


ビジネスってのはそういうもんだと頭では理解しているつもりだけども、自分の良心とも言うべき部分がこういう「大人のいやらしさ」を拒絶する。きっと自分は甘いことを言っている。今井だって本当はカミングアウトしたくないだろうが、自分の生活のためにはこうやってプライベートであることを切り売りして話題を提供し、そして再びSPEEDという舞台に立って金を稼がなければならない。ひいては息子のためなのだろう。


しかし息子のためとはいえ、その息子を切り売りするような方法しかないというのは哀しくないか。自分は哀しい。苦渋の決断だったのかもしれないし、それとも金のためにホイホイ乗っかったのかもしれない。ただ、ひとつはっきりしているのは結果的に今井が自分の息子のプライバシーをカミングアウトしたことで金を稼ぐという方策を選んだこと。


この発表をすることで、SPEEDは復活するし、今井の懐には金が入るし、そしてSPEED復活を手掛けた会社の人間及びその周囲にも利益をもたらすのだから、誰一人として損する人間はいないのかもしれない。自分だって損はしてない。しかしこの話がやっぱり哀しいのは、アイドルグループってのは曲がりなりにも見ている者へ夢や希望を与えるために存在していてほしいのにも関わらず、今回の復帰話には夢も希望も感じさせない「ただの現実」しか見え隠れしていないことだろう。


その決断を下さざるを得なかった今井には大いに同情はするが、金はやらん。