ひどく、ひどく、ひどく悪趣味だが

銭ゲバ
今期自分が見たドラマは3本が突出していましたが、そのうちの1本です。


もちろん原作の素晴らしさというのもあるのでしょうが(毎度の如く未読です)、それでもやはりここは脚本の岡田惠和ならびに演出を賞賛するしかないと思う。毎週毎週見る度に視聴者も持っている人間のドス黒い感情をイヤな具合に刺激するため、主人公である蒲郡風太郎(松山ケンイチ)を救いがないまでに「追い詰めた」脚本および演出は今のドラマでなかなか出来るもんじゃありません。前のクールで「スクラップ・ティーチャー」みたいなジャニーズ仕様のヌルいドラマ放送していたのと同じ枠とは思えません。


毎週の放送もいちいち面白かったのだけども、ただ何と言っても最終回が素晴らしすぎた。風太郎が自殺するためにダイナマイトの導火線に火をつけ、ダイナマイトに着火するまでの間に「もし幸せだったなら」という風太郎の空想が挟みこまれる。父親の健蔵(椎名桔平)が普通に働いていたら、から始まる空想の数々。今まで殺してきた人物もみな登場するのだが、幸せな空想と交互に、現実での「死の瞬間」が挟まれる。こんなひどく、ひどく、ひどく悪趣味な演出はないだろう。しかし、最高だ。これほど見ていて悶絶する演出はなかなか思いつかない。最終回にこんなもん見せられた日には、思わずテレビの前で「うわぁぁぁぁ」と口走らざるをえない。最後まで視聴者を追い詰めるのに油断も隙もなかった。


主演の松山ケンイチが凄いことなんて今更説明するまでもないけど、全体のキャストも抜群。主要キャストはもちろんのこと、光石研椎名桔平に加えて山本圭を刺し殺して自殺した柄本時生の強烈な印象も忘れられない。そんな中でも特に茜役だった木南晴夏は「20世紀少年」の小泉響子として一躍有名になりそうだが、銭ゲバでもなかなかどうして見事な存在感を発揮していた。


未曾有の不景気の今の世の中で、風太郎の所業に戦慄を覚えながらも共感せざるを得ない人たちはテレビの前に沢山いたのではないだろうか。暫くいい作品が出てこなかった日テレドラマだけども、「銭ゲバ」は文句なく名作だと思います。視聴率こそ高くありませんが、素晴らしいもんは素晴らしい。もっと日テレが真剣に宣伝すべきだった。ま、なかなか宣伝しにくいドラマではあったと思うけど。途中から提供クレジットも「コカコーラ」1社だけになったし。


日テレは次クールから火10のドラマ枠をバラエティにするようだ。現在土9、火10、水10に加えて木曜深夜に関東ローカルの土曜深夜(サタデーTVラボ)と5枠も放送しているわけで、はっきり言って多すぎる。深夜枠は実験的なドラマの場所ではあるけども、それでも今の日テレの力とキャスト回しを考えれば土9と水10の2枠が妥当だろう。


ゴールデンタイムのドラマ3枠体制の最後に何かの間違いのように生み出された怪作「銭ゲバ」。たまにこういうドラマが出現するから、なんだかんだ言ってもドラマを見るのが止められないのであります。見なかった人は後悔すればいいズラ。☆4つ。