上品にふてぶてしい女

「マツコ有吉の怒り新党」が相変わらず面白いわけで。前半の視聴者からの怒りと後半の「新三大○○調査会」のバランスが非常にいい。30分番組を2本見ているような感覚でいける。


まあ番組の面白さについてはここで改めて語る必要がないと自分では思っているのだが、今回改めて語っておく必要があると思ったのは「夏目三久は恐ろしい女である」ということ。久々に戦慄が走りました。もちろん大袈裟な表現ではあるけれど、夏目恐るべしというエピソードが番組の冒頭で展開された。


有吉が「楽屋へのあいさつはしなくていい」というルールを「アメトーーク」の芸人新ルールで提案したことを受けて、怒り新党でも楽屋へのあいさつは特段必要ないと触れ回っていたという。しかし夏目は「私はあいさつをさせてもらいます」ということで、毎回あいさつをしていたらしいが、途中から面倒くさくなったのか来なくなったという。もちろん有吉は「あいさつしなくていいですよ」ということを標榜しているので、あいさつに来なくなったこと自体は別に構わないのだが、しなくていいと言ったにも関わらず「させてほしい」と続けていたあいさつをしなくなったことに関し夏目本人はどう思っているのか、と切り出した。するとマツコは「自分のところはもうだいぶ前から来ない」と切り返す。


そこで夏目本人が登場。この話題を振られて、夏目がはにかみながら出した答えは「面倒くさくなって」であった。苦笑する有吉とマツコ。そりゃそうだ。この後夏目は「自分の不躾をテレビで発表されてしまって…」という旨の発言をし、恥ずかしそうに反省するのである。ここまででこの話題は終了。


有吉マツコの「どうなってるんだ」という意見も当然で、そして「面倒くさくなった」という身も蓋もない理由に反省をする夏目も当然。オープニングトークのオチとしては非常にまとまっていたのだ。しかし自分がこのまとまりのいい一連のやりとりに決定的に欠けているものがあると思う。それは「有吉とマツコが全然怒らないこと」だと思う。番組のタイトルからして「怒り新党」であり、なおかつ「必要ない」とは言ったとはいえ不義理を貫いた夏目に怒りの矛先をぶつけないのは、本来ならば一連のパッケージとして成立してないんじゃないか、と自分は思えてしまうのだ。


でもこのトークは収まりがよい。なぜか。それは「夏目はそういう女であり、有吉もマツコもそれでいいと思っている」ところに起因する。要するにここで夏目に怒りをぶつけても「まあ夏目だから仕方ないわな」くらいな感じで終わってしまうのだ。これって実はものすごく恐ろしい。嫌悪の意味での恐ろしいではなく、有吉マツコをもってしても夏目の立ち居振る舞いに完全に籠絡されているということだ。どう考えてもあの番組での「やりたい放題」のポジションは夏目だ。


しかし夏目はその美しさと物腰の柔らかさから、案外無礼なことをやっても受け流される感がある。いや本人に会ったことないし実際はどんな人なのかは分からないけども、少なくとも「怒り新党」と見ている限りにおいてはそういう扱いを受けている。これって物凄く得なことであり、そして恐ろしいことでもある。


喩えとしての選択が正しいのかどうかは怪しいが、たとえば小森純が同じことを有吉にやったら、間違いなく有吉は「ふざけんじゃねえブス」と小森を罵っていたのではないだろうか。「おめえが面倒になって自分の決めたこと勝手にやめてんじゃねえよ」と有吉の口撃はさらに続くことも容易に予想できる。しかし夏目にはそれが来ない。まるきり同じことやってるのにも関わらず、だ。


おそらく小森ならここで有吉に言い返してさらに有吉がトドメをさして終わるのだろうが、夏目は「反省する」のである。これが巧妙な手口だ。反省すれば済まされるもんではないが、夏目の反省は「しおらしい」のだ。これ以上攻撃をする気にさせない。たぶん小森が反省しても「反省して済むんなら警察なんかいらねえよバカ」とか言われてお終いだ。けど夏目にはそれをさせないしおらしさがある。


そして自分が何より恐ろしいと感じるのが、その夏目の反省はたぶんウソだということ。いや、ウソかどうかは分からないけど、少なくとも「見た目以上に本人はなんとも思ってない」ような気がするのだ。あくまで「気がする」なんだけど、そんな風に見える。だって、本当に反省するくらいなら最初からそんなことしない。それを承知でやっていそうなところに恐さを感じる。恐ろしい女である。簡単に言えば、「上品にふてぶてしい」のだ。下品にふてぶてしい女はいくらでもいる。*1しかしこの上品にふてぶてしいのは、多少無礼なことをしても責められない強さがある。本人が自覚して利用すると手が付けられない。いままさに夏目はそんな感じ。


夏目はコンドーム写真の一件で日テレを干され退社し、そしてフリーでまた復帰し今のポジションにいる。ちょっとずつではあるがまた露出も増えている。自分は少なからずとも「あんな写真が出て退社とはかわいそうだなあ。フリーでも頑張ってほしいなあ」というどちらかといえば同情的な応援目線で夏目を見ていた。しかし最近の夏目を見れば見るほど、そんな同情は必要ない人物であるということがなんとなく分かってきた。だからこそ、そろそろ有吉とマツコに全力で罵られて欲しいと思っているのは自分だけじゃないはず。

*1:誤解無きようにしておくが、別に小森純が下品でふてぶてしいという意味ではない。まあそう問われれば否定もしないけど