これはまずいことになったのだ

ソフトバンクが「S-1バトル」なるお笑いの大会を開催するようです。


大会概要の要点をまとめるとこんな感じ。
・毎日2組の芸人がネタで勝負。審査はソフトバンクユーザーが携帯から投票。
・月間のチャンピオンには1千万円。
・各月から選ばれた最大12組のチャンピオンから年間チャンピオンを選出。優勝者には1億円。
・決勝はテレビでも放送予定。
・ジャンル、芸歴は問わない。
・なぜか投票者のユーザーにも抽選で1千万円が当たる。


とまあ、概要を書き出してみただけでもヤバさが伝わる。これはヤバいでしょう。金額が破格という意味でのヤバさではもちろんなく、M-1をはじめとする既存の大会の価値を相対的に大きく下げるどころか、今まで延々と続いているお笑いブームを一気に収束させる予感すらある。


まず「月1千万」という賞金のアホさ。既存3大賞金大会(M-1 R-1 KOC)は年に1回、しかもカテゴリを決められた上(M-1に関してはキャリア制限もあり)での勝負だからこそ、芸人が魂を削って勝負に来る。しかし「S-1」は毎月ソフトバンクユーザーの携帯投票で1千万もらえるかもしれないのだ。これは間違いなく既存の大会の価値とともに出場芸人のモチベーションを著しく下げることになるでしょう。「M-1」くらい名誉も定着していればまだしも、昨年始まったばかりの「キングオブコント」あたりは危険。初代王者のバッファロー吾郎がバラエティで「あれ?」という感じになっている上でも危険だ。


そして何より引っかかりそうなのが「審査が携帯による投票」ということ。投票者にも1千万が当たるということからも、ソフトバンクの利用者を増やそうという意図は明白だが、裏を返せば「ソフトバンクの携帯さえ持っていれば、ネタはどうあれ人気投票的なジャッジが可能」であるということ。極論を言えば、ソフトバンクユーザーのファンをより多く持っている芸人が面白いかどうかはともかく1千万を手にするチャンスは格段に上がったということだろう。年間王者となるとテレビ放送もあり単なるユーザーの投票ではないかもしれないが、月間王者の場合はおそらくユーザー投票で決まるわけで、これは「ネタの勝負」の次元にはならない。


キングオブコント」の決勝審査がこれとは真逆の「芸人による投票」だったわけで(厳密にいえばソフトバンクユーザーの芸人も投票できるから真逆ではないけど)、そういう意味からも「キングオブコント」の価値が危うい。常々一般人の評価を信用していないゆえ芸人投票を採用したダウンタウン松本はこの大会についてどうコメントするのかは注目である。


さらに「芸歴・ジャンル不問」という大雑把さ。また引き合いに出すが「キングオブコント」がコントというジャンル同士ですら比べるのが容易ではなかったにも関わらず、ジャンルの壁を取り払ってしまった場合にどのように一番を決めるのか、これはもう意味が分からなくなってしまう。同じ食材で調理をしてどっちが美味いかを決めることは出来るだろうけど、かたや肉料理、かたや魚料理でどっちが上かを決めろだなんて言われたら、これは間違いなく「好み」の問題にしかならない。しかも芸歴も不問とくれば、これはもうはっきりいって「素人は手に負えない」どころか「プロだって評価しにくい」わけで、やはり最終的に落ち着くのは「素人による安易な人気投票」なのではないかと思う。


自分は松本が思うほど素人の評価を当てにしていないわけではないけど、一方で安易に1千万を与えられるような評価を素人が下せてしまうのもなんか違う気はする。場合によっちゃ「2ちゃんねる」あたりでユーザーが共謀して、明らかに面白くないやつに投票して人生狂わせることも可能だろう。プロの審査にはそういうのを抑止する意味もあるだろうし。


あとよほどのコアなお笑い好きでない限り、1年間通して大会を追いかけるのは相当に骨が折れるし、興味が持続しないだろう。誰しも飽きてきた中でしょうもない芸人がぬけぬけと1千万稼いだりしたら、これはもうブーイングものでしょう。


とにかく既存の大会ですらルールに関していろいろ議論がある中で、これほど漠然と大雑把で金だけは凄いという最高に意味不明な大会である「S-1」。ソフトバンク孫正義は「ゴルフのチャンピオンでも1億もらっている。笑いも立派な芸術だと思う」というコメントを残してはいるが、笑いが芸術だと思っているなら、いや少なくとも笑いに興味があればこんな悲惨な大会を企画はしない。


結論。「S-1」を名乗るのはAVメーカーだけで充分である。どうせなら「S-1バトル」の初代優勝者は蒼井そらってことにしよう。それで各方面丸く収めようや。