毒素

伊藤アナの謝罪から始まった「サキヨミ」の視聴率は10.1%だった。初回の数字が8.5%だったことを考えると、これはもうモナ効果と言わざるを得ない。おそらく大方の人は「どんな状態で始まるのだろう」という野次馬根性であったことは想像に難くなく、かくいう自分もそのうちの一人である。


世間の注目が「サキヨミ」に集まるなか、自分はこの番組の裏で放送されていた「ソロモン流」のほうを注目していた。録画もした。モナ騒動のあとの「サキヨミ」も見たかったのだけど、それ以上にヒロミが「賢人」(ソロモン流で扱われる人物をこう呼ぶ)の「ソロモン流」を見たかったのである。そう、録画までしてである。


ヒロミといえば「B-21スペシャル」のリーダーであり、90年代のバラエティにおいて活躍したタレントである。今でこそレギュラー番組は一本もない。 94年に始まった日テレの特番「ものまねバトル」の司会を未だに務めていることに当時の勢いの名残を感じさせるくらいだ。しかしそのヒロミが今となって「賢人」としてソロモン流に登場するとはこれ一体どういうことか。


もっとも「ソロモン流」の人選はハナっからよく分からない部分がある。自分がここで取り上げただけでも「田中義剛」「ドン小西」という顔ぶれ。義剛こそ現在「生キャラメル」の大ヒットで注目こそされているが、当時は発売に着手したばかりで、今ほどの勢いはなかった。ドン小西に関してはいつが全盛期かも分からないし、そもそもなぜドン小西だったのかも分からない。だからここでヒロミが取り上げられることに関してもそれほど疑問に持たなくてもいいのかもしれない。


しかしそうは言っても、テレビ番組として取り上げられるからには落ち目である人物を扱うわけがない。テレビ的に言えばレギュラーが一本もなくなり、明らかに一時期の勢いが見られない芸能人を取り上げるわけがない。取り上げるからにはそれ相応の「勢い」が必要なのだ。そしてその「勢い」とは加圧トレーニングのジム経営である。


レギュラーこそなくなったヒロミであるが、彼の趣味の一環であるトライアスロンのトレーニングとして始めた加圧トレーニングにハマり、自分もインストラクターの資格を取得して2年前に始めた加圧トレーニングのジムの評判がすこぶる良いようで、経営も好調なんだとか。それにかこつけて、趣味が高じて仕事に繋げるヒロミの生活スタイルそのものを「遊びの達人」と持ち上げたのが今回の企画。そもそもヒロミを「遊びの達人」という捉え方で番組を構成することに吐き気を催すのだが、くさやが吐き気を催すほど臭くても美味しい(らしい。食べたことないけど)のと同じで、好奇心も手伝って「食べてみよう」と思うのが自分の悪い癖。というわけで録画して見たわけだ。


結果として、いいもん見れたと思う。


ヒロミを「遊びの達人」と持ち上げる奇妙な現象は今に始まったことではない。それこそヒロミがタレントとして絶頂期だった97年頃には「Apa ヒロミの大人の遊び方」というタイトルの大人の遊びを指南する「不遜」という言葉しか思い浮かばない番組も放送されていた。当時のバラエティはまだまだ色んな意味で寛容だったんだな、と今更思う。


時代は21世紀に突入し、ヒロミもさすがに重宝されなくなる。人気絶頂だった頃ならまだしも、今ヒロミをテレビで見たときに「さすがに『遊びの達人』ってほど遊んでられねえだろ」と普通は思うだろう。しかし未だにヒロミは遊び続けているのだ。それこそ加圧トレーニングのジムが上手いこと成功したことによって、である。「一生遊んで暮らしたい」とは猿岩石の写真集のタイトルではあるが、ヒロミはそれを地で進んでいる。


なんだろうな、「まあヒロミの人生だし」と思う一方でこのイライラ感は。


おそらくはこのバカみたいな物価上昇で景気の良さなんて一切実感できないこのご時世における「遊びの達人」というキーワードの不愉快さとともに、「ヒロミが未だに遊び続けている」という事実に対する不愉快さなんだろう。もちろんヒロミがヒロミ自身の成功でつかんでいる「遊び」なのだから、自分はもちろん他人が口出しする余地なんてのは一切ないとは分かっていても、それでも自分の中に発生する毒素の漲り方は最近ではなかなか味わえるものではない。なるべく不愉快なものを排除した結果生ぬるい番組ばかりになってしまったはずの今のバラエティ界において、なんて刺激的な番組だろう。


あとは岩城滉一を頂点とする「カッコいい」の基準が未だに廃れていないことへの憤りもある。ヒロミが出てくると必ず出てくる岩城。そしてヒロミの周辺に集う人たちは皆「岩城的カッコいい」を信じてやまないような人たちに見えるのが不思議。AVEX周辺ではないが、同じ価値観の人間はやっぱり同じ場所に集うんだろうなあ、とは思いつつも、そのグループが隆盛を誇ろうとすることへの抵抗感は依然根強い。


個人的には毒素を体内に取り込むことも必要としているので完全否定をするつもりはないが、少なくともこの番組内容が世間で歓迎されてないことは願う。もっとも6%そこそこの視聴率なので世間の目に触れられていない可能性のほうが高いけど。