笑って許して

「どっきりワールドカップ」つうセンスの欠片も無いタイトルの番組を見てたんですが。


世界各国のどっきり番組を集めて放送してしまおうという何のヒネリもない番組。毎週「世界まる見えテレビ特捜部」を毎週見てる人なら、どっかで見たことあるようなものばかりだったんではないだろうか。個人的には「まる見え」はここ10年くらいマトモに見てないのでどれも新鮮だったんだけど。


紹介されたどっきり番組の中で一際異彩を放っていたのがアメリカのどっきり番組「Kicked in the nuts」である。「nuts」とはスラングで金玉の意味であり、直訳すれば「金玉蹴った」。見ず知らずの人の男性の股間をアフロの男が急に蹴り上げるという、なんとも男性泣かせなどっきり番組なのである。ていうか、これってそもそもどっきりなのかという気すらする。驚くのは驚くけど、それ以前に股間蹴られて「どっきり」もクソもない。


おそらくこの番組を見ていて「kicked in the nuts」のVTRを見た人なら全員そう思ったと思うのだが、この番組の恐ろしいところは、アフロの男が股間を蹴り上げた後に悶絶している男性に「ほら、キックザナッツだぜ」と言ってカメラを指差せばみんな笑って許してしまうという点である。紹介されたVTRでは全員が全員「だったらしょうがねえや」というノリで許しているもんだから、「キックザナッツだぜ」と言えば全てが解決するような錯覚すらある。


そもそもどっきりであるとはいえ股間を蹴り上げられれば、普通の男性なら怒る。「なにがどっきりだバカ野郎」となるわな。もちろんそれがどっきり番組だと分かれば一定の理解を示す人だっているとは思うけど、やっぱりそうでない場合のほうが多いような気がするのだ。どっきり番組だろうが知ったことはないと怒る人だって絶対にいるはずなのだ。


もちろんこちらとしては、アメリカで放送された番組のVTRをさらに別の番組の紹介VTRで見ているわけだから、怒っていない人の映像を立て続けに見せられただけの可能性はある。VTRには登場しないだけで何百もの怒った人がいる可能性はある。しかし、数人とはいえ股間を蹴られて悶絶しているのに「キックザナッツだぜ」とネタバラシをした時点であそこまでフレンドリーになれるという妙な映像を見たあとでは、「何かよく分からないけど、この番組はそれで全てが許されているんだろう」と思えてしまうから不思議だ。日本ではまず無理だろう。


「どっきり」というジャンルは世界の中でもかなりメジャーな部類に入る。日本でも「どっきりカメラ」だったり「スターどっきり」だったりと、どっきり番組が一世を風靡していた頃はあったが、今ではバラエティのいち企画として登場する程度で、殆ど単体の番組としては見かけなくなってしまった。それもひとえに、日本のテレビ業界の倫理規定が厳しくなったからだろうと思う。昔ならもっと無茶できたものを、今では自主規制もあるんだろうが過激な内容の番組はとんと放送されなくなってしまった。


さらにはいわゆる「素人」のプライバシー意識が強くなったこともあり、無闇に一般人をどっきりにかけることも出来なくなったのだろう。芸能人を騙すのも面白いが、やっぱり見ていて面白いのは本当に素で思いも寄らないリアクションをする一般人なのである。一般人を騙すことが出来なくなったことが、日本における「どっきり」の終焉だったのかもしれない。


今日本でどっきりが存在しているのは企画物のAVの中だけである。どっきりと称してスカートめくりをやってみたり、通りがかりの人のおっぱいを揉んでみたり、と。もちろん「どっきり」という触れ込みだけで仕込みであるから厳密には「どっきり風AV」なのであるが、それでも「どっきり」が残存している数少ない現場と言って差し支えないだろう。


翻って「キックザナッツ」に関して考えてみても、あんなに素直に笑って許してくれる男性ばかりとは考えにくいから、やはり仕込みなのではないかと思える。日本と違って海外のドッキリでどこまで「仕込み」の概念があるのか不明であるから本当のところはどうか分からない。そもそも仕込みをするなんて発想すらあるか怪しい。こんな考え方になるということは、すっかり日本式の「どっきり」に毒されていることなのかも。


今一度日本にも「キックザナッツだぜ」で済ましてしまうようなどっきりを放送できる番組が復活しないかな、と思わないでもない。そしてそれを笑って許すことの出来る大らかさが今の日本人には必要なのかもしれない。ま、そんな大層な話ではないんだけど。