どとーの愛

「愛は怒涛(どとー)が正しい」。かつて小林よしのりが書いたマンガ「どとーの愛」の触れ込みである。周りが何と言おうと関係ない。盛り上がるだけ盛り上がった二人には「愛」を怒涛の如く突き進んでいくしかないのだ、という意味である。


もっともこのマンガが出された背景として、当時(90年代前半)流行ったトレンディドラマのアンチテーゼが含まれていたようではある。だからマンガの中身及び論法は極端であるとは思うけど、言ってること自体はハズレてはいないように思う。


これは換言すれば「障壁があればあるほど燃える」。平坦な恋愛に盛り上がりはない。あくまで自分たちの「愛」を邪魔するものがあればあるほど、自分たちの愛を成立させるために必要以上に盛り上がるのだ。「ロミオとジュリエット」が各家の立場が障壁となって思うような恋愛が行かなかったからこそ燃えたのだ、という説がある。「なぜ私たちの恋愛を邪魔するの?」ってな具合に。


無粋を承知で言うけども、水嶋ヒロ絢香の結婚もいくぶんそんな気配が見受けられる。


水嶋ヒロといえば当代きっての「イケメン俳優」である。いわゆる「男前」ではなく「イケメン」と呼ぶに相応しい綺麗な顔をしている。イケメンの登竜門であるヒーローものの「仮面ライダーカブト」出身であり、「花ざかりの君たちへ イケメンパラダイス」の難波役で知名度を上げる。そして先日まで放送されていた「メイちゃんの執事」ではメイちゃんこと榮倉奈々をおしのけて主演の座に。


自分は水嶋ヒロが嫌いなわけではないけども、「イケメンパラダイス」や「メイちゃんの執事」などのイケメン演技を除けば「わたしたちの教科書」で演じた数学教師役の「実力不足」な印象が強く残っており、今のイケメンブームの牽引役である一方で、まだまだ役者としてはしんどいだろうと思う。つまりは「イケメン」を愛でる女性たちの人気に依るところが大きい。


だから彼が今後ドラマで活躍するには、まだまだ彼を愛でる女性たちの支持が不可欠なのである。にも関わらず彼は「結婚」という選択をしてしまった。これはまずい。そりゃファンの中には「おめでとう、幸せになってね」とあまりに殊勝な言葉を吐く人もいるだろうが、大抵の人は掌を返したように彼から離れていくのではないだろうか。


無粋を承知でいえば、彼らが入籍した2月22日ってのは間違いなく「メイちゃんの執事」撮影中真っ只中だったわけで、水嶋ヒロ目当てにドラマを見てワーキャー言ってた人に結果的に冷や水ぶっ掛けているわけです。ここらへんの配慮の無さってのは「自分は俳優である」「ファンよりも妻になる人物が大事」という言葉で説明されるのでしょうが、要するにファンの存在を最終的にナメてるということだとも思うんですよ。


モーヲタとして痛すぎるくらいにこの手の洗礼を浴びた身から言えば、ファンが起こすヒステリーな反応はごくごく普通で、なんらファンに非はない。テレビという画面の中で自己の恋心を勝手に投影しているファンは、その勝手な投影が裏切られれば勝手に怒りだすのである。しかしその勝手な投影がアイドルや俳優を支えているのは事実なわけで、「水嶋ヒロの身にもなってみろ」という言説はここではなんら意味をなさない。たまに物分りのいい風を装っているファンが「本人が幸せになるのが一番なのではないか」みたいなことを言い出すのだが、現実に水嶋ヒロが幸せかどうかは当然ながらファンには一切関係ないのである。逆にテレビの中の人物にそこまで真剣に思い遣る神経が自分には分からない。言いすぎを承知であえて言ってみる。


話を戻す。今一番女性の支持が必要な水嶋ヒロは自らその支持を断ち切ってしまった。本当に将来のことを考えるなら、今は結婚などするべきではない。当然である。けどしてしまった。なぜか。
それは今水嶋ヒロが恋愛に「どとー」だからである。冷静な判断が出来ない。出来ないから突っ走る。じゃないと仮にも慶應大学を卒業した頭脳を持つ水嶋がこんな判断を下すわけがない。


自分には「結婚してファンは離れてしまうけども、その辛さを乗り越えて育む絢香との愛の物語」という茨の道を自ら進んで歩みだしたのではないかとすら思える。このままスキャンダルもなく行けば暫くは安泰、人気に翳りが見えてくる頃には別の方向性も見えるだろう。今なぜ早急にそんな枷を課すのか?それは、そういう障壁があったほうが、絢香との恋愛及び結婚が「燃える」からじゃないだろうか。いかに結婚会見で浮つきも見せてはいなくても、結婚という結論を下した時点でもう浮つきまくっている。


一方で絢香のほうはどうか。2006年に「I Believe」でデビュー。生年月日が同じである女子フィギュアスケート安藤美姫(2代目ミキティ)との関係も話題になった。その後もコンスタントにヒットを飛ばしているが、今年に入ってから目立った活動はしてなかった模様。


その背景として、デビュー翌年から患っていたバセドウ病の話を切り出した。自分も詳しいことを分からないが、甲状腺が腫れ様々な症状を発する病気らしい。他人には分からない苦労があったのだろう。なもんで、彼女は病気の治療も兼ねて、年内で歌手を休業し家庭に入ることを宣言した。


こちらにはいささか冷静な部分も垣間見える。「歌手を休業してまで家庭に入る」のは、単に水嶋ヒロに尽くすためではなく「病気の療養」という大きな意味があるし、また歌手にしたって本当に才能があれば数年休んでいてもいくらでも復帰できる。それこそ離婚でもすればすぐさま復帰だなんて話にもなる。結婚する、休業することで本業に大きなリスクを負うわけではない。


こう考えると、水嶋ヒロのほうは俳優業に結構なリスクを背負いまさしく「どとー」を突き進んでいるわけだが、絢香のほうは「年内で歌手休業」という水嶋に尽くすような態度を見せつつも病気の療養が主となり、歌手活動だって年内は続けるという極めて冷静な判断を下している。そこに水嶋のような「どとー」は見られない。いつだって女性は男性より冷静で打算的ということだろうか。別に貶しているわけではない。


これで絢香が「今すぐ歌手活動を休業してヒロくんとラブラブ」なんて素振りを見せようものなら二人揃って「どとー」モードであり、この結婚により水嶋ヒロの人気が急落して喰うに困るような悲惨な状態になっても愛のあるセックスがあれば大丈夫!とか言ってるんだろうな、と思いっきりハナクソでもほじりながら書いてみようかと思ったのだけど、冷静に捉えてみると案外絢香の判断が冷静だったことに気付かされた。




とまあ、思いつくままに書いてはみたもののまとまりに欠ける文章になりました。個人的には陣内紀香離婚騒動のあとであの記者会見を見せられても思うこと、それは「オールスター感謝祭」のスペシャルゲストとして登場した郷ひろみを解答者席にいた陣内はどんな気持ちで見ていたのか、と。つまりはそういうことです。