KY式

なんか「KY式日本語」つう本が売れてるらしいじゃないですか。


「問題な日本語」という日本語の間違いについて書いた本がちょっと前にベストセラーになったが、その監修をした北原保雄が調子に乗って出したのがこんな本。巷で流行っているとされている「KY」だの「JK」だのというアルファベットの略語を集めた本なんだとか。こりゃもう北原が完全に調子に乗ったとしか思えない。


何度も書いてるけども「間違った日本語」つうのは厳密には存在しないわけで、間違っていても通用すれば問題ない。裏を返せば通用しない日本語が間違っているだけで、通用すれば間違っているとは言わない。それを「問題な日本語」は大手を振って「間違った日本語」について書いているのだから、もう最初から「なんだかなあ」の世界である。


どうやら北原はこの本のヒットで儲かると思ってしまったようで、何をとち狂ったのか「KY式日本語」などという、大方の日本人には通用しない言葉を日本語として認定してしまった。じゃあ「問題な日本語」は一体なんだったのかと言いたくなる。北原にしてみれば、これらも文法的な間違いがない「日本語」なのかもしれないが、自分の基準からすれば通用しない言葉は日本語ではない。だからこれはどう考えても日本語ではない。


「KY」「JK」も元々はネット発のスラングなわけで(「KY」に関しては朝日新聞記者の珊瑚礁落書き事件のイニシャルを皮肉のために当て込んだという説を聞いたことがある)、それをマスコミが取り上げたから無理やり「若者言葉」として、さも今の子供が自発的に使い出したかのような取り上げ方をしているが、少なくとも自分はマスコミが紹介する以前にネットで広まっていた頃からこの言葉を使っていた人間を知らない。


とまあ、じいさんみたいな愚痴はどうでもいいのだ。本題は「KY式日本語」に掲載されている略語に、自分は妙な「どこかで出会ったことがありませんか?」という懐かしさを覚えるという話。


無論「KY式日本語」に掲載されている略語を自分が使っていたわけではない。しかしあの「何かの言葉の頭文字をアルファベットで表現する」という現象には馴染みがあるのだ。使っていたわけではないのに、である。


というのも、自分が高校生の頃に、街にたくさんあるアルファベットの略語を見つけては友人に「あれは何の略でしょう?」と質問をしていたのだ。そして友人も自分も、そのアルファベットが何の略称であるかを考える。そしてその略語とは必ずエロワードでなければならないという縛りがあったのだ。


一例を紹介しよう。

自分「(ケンタッキーフライドチキンの看板を指差しながら)おいおい、あの『KFC』って何の略か知ってるか?」


友人「えーとね、『今日もファック中』じゃね?」


自分「あー、それは違うわ。正解は『昨日のフェラは超すごい』でした」


友人「う〜ん、そうきたか」

とまあ、こんな感じ。男子高校生にありがちな下衆な会話ですね。


しかしこれを下衆な会話とするならば、下ネタを使っているかいないかの違いで「KY式日本語」に掲載されている言葉もみな下衆なのである。下ネタが下衆なのではなく、アルファベットの頭文字で言葉を省略するという行為に喜びを覚えているあたりが下衆なのだ。但し、高校生の頃の思考回路なんてこんな程度であり、なんも下衆で構わないと思う。KY式日本語に掲載されている言葉を主に使っている(頻繁に使っているとは思えないが)のも中高生なわけだし、それでいいのである。


ただ自分が思うに、高校生ではなく大人、しかも仮にも国語学者と名乗る人間がこんな下衆な言葉たちを集めて一冊の本にして売り出そうという行為そのものが、言葉以上に下衆だなあと。少なくとも大人のやることじゃないのである。


学者には権威がある。だからいかに軽挙妄動であっても、学者がやればそれなりの箔を与えることになる。本来「下衆」の一言で済ますことが出来るアルファベットの略語に対して、存在を認めることはあっても、間違っても学者がまとめて一冊の本にしてはいけない。金儲けが悪いとは言わないが、今回の件に関しては学者がやっていい金儲けだとは思わない。


偶然なのか知らないが、「KY式日本語」の著者北原のイニシャルも「KY」だったりする。学者のくせにこんな本を出して余計に日本語を混乱させている、という意味で空気が読めない北原にはこれ以上ない相応しい言葉なのかもしれないな、KY。イニシャルが愛称となっているMJ(みうらじゅん)もこの手の略語を多用するが、辞書にするなんてことは絶対にしないだろう。下衆のことは「GS」とか言ってそうだもんな。


というわけで、どうせ最初から下衆な本ならば、自分の「KFC」をはじめとしたエロ略語も漏れなく載せろという話です。日本語の乱れとか美しさとかはどうだっていいです。