一発屋利権

アメトーーク
有吉弘行プレゼンツ「最近の一発屋事情」。自称「二発屋」有吉が一発屋芸人を集めてその有様を語る。


基本的に「負」のアメトーークは面白いというのが持論であり、今回も例に違わず面白かった。有吉、つぶやきシローダンディ坂野ムーディ勝山という「一発屋四天王」に加えて今回連行された藤崎マーケット長州小力レイザーラモンHG、さらには一発屋であることを自首した三瓶。ムーディが一発屋歴が短い割に四天王に食い込んでいるのは有吉に認められたおかげだろう。


今回集められたメンバー、特に四天王の面々はもはや一発屋であることがアイデンティティにまで昇華しているが、後列の今回連行された面々は若干の戸惑いが見られ、そこらへんの微妙な空気の違いは面白かった。唯一どちらにも属さず一発屋であることを自首した三瓶はブレイクしてから一発屋扱いもされず暫く放置されていたことが上手い具合に熟成されていい感じ。ブレイク最中は全然好きになれなかったが、今回の三瓶は不覚にも笑ってしまった。


しかしまあ「一発屋」といっても、その裾野は広い。今回有吉が集めたメンバー以外でも、「ヘキサゴン」には「天下無敵の一発屋」をリリースした一発屋集団としてダンディ、波田陽区、小島よしお、金剛地武志が名前を連ねる。また「キズナ食堂」で放送されている企画「一発屋で海の家」ではX-GUN、BOOMER、鉄拳、ムーディ、ダンディ、小梅太夫、鼠先輩が働いている。


一発屋の定義は割と分かりやすいが、どこまで売れれば「一発」となるのかの線引きは難しい。X-GUN、BOOMERあたりは「ボキャブラ」という括りでは売れたが、単独で売れたかといえばそうではない。また小島よしおは「一発屋」を自称しているもののなかなか消える様子はない。さらに鉄拳、金剛地、鼠先輩クラスになると一発にまで届いていない気がするし、小梅太夫に至っては「エンタの神様」という局地もいいところの活躍であり、同じくエンタ出身の一発屋である波田陽区とは比べものにならない。


そういう意味では今回有吉が集めたメンバーというのは誰が見ても確実に一発ぶち上げている人たちであり、そこらへんの線引きを一番はっきりさせているのは有吉本人に他ならない。有吉が超一流の一発屋であったことも関係しているのだろうが、おそらく有吉は誰よりも「一発屋」という括りに厳しい。なぜだろうか。それは有吉が「一発屋利権」をモノにしようとしているからではないか。


番組中に有吉は今後芸能界で復活するには「一発屋の集団を作ってしまえばいい」ということで、ブレザーまで用意して一発屋のグループを立ち上げた。そして「二発屋」になった自らをリーダーに定め、「名球会で言うところのカネヤン(金田正一)」とまではっきりと言ったのである。


名球会は打者であればヒットを2000本以上、ピッチャーであれば200勝あるいは250セーブという記録を達成した選手だけが入会を許される集団(現在は株式会社化)。しかしこれらの条件以外にも「昭和生まれであること」いうものがある。これは会長の金田が「自分より年上の選手が入会して口出しされないように」という思惑があったというのは有名な話。


「会長が会員にブレザーを着せる」という儀式がまんま名球会であり、着せるのは会長の金田であるから実際にブレザーを着せた有吉はそのことを意識しての発言だろうが、おそらく名球界入りの条件の話も知ったうえで「自分はカネヤン」と擬えたのではないだろうか。名球会同様、一発屋グループに入る条件を高めに定めることで権威付けをし、一発屋をブランド化する。もちろんその条件を定めるのは有吉。つまり今後一発屋になる(一発屋であると認定される)には自分の許可が必要になるぞ、と。もっと言えば一発屋業界は自分が今後イニシアチブを握っていくぞ、という意味だ。


有吉が善意で「一発屋一発屋の心情を知るもの同士仲良く助け合い生き残っていきましょう」だなんて生ぬるい考えであのような集団を作ったわけではないのは明白だ。今後有吉が続々と出現しては消えていく一発屋に仕事を斡旋すると同時に、その長として君臨することで揺ぎ無い地位を確保しようとしているわけだ。一発屋からすれば奇跡の復活を遂げた有吉の存在は一発屋には希望の星であるし、また有吉からすれば次々と出現する一発屋は尽きることのないエサのようなもんである。「互いに美味しい」という意味では助け合っているのだろうが、その現実は有吉の足場固めである。


表向きは仲良しグループを装った上で実際は会長(=有吉)の金儲けのための集団。まさに名球会をお手本にしたかのような今回の一発屋グループ。有吉の場合、これを名球界に対する皮肉やパロディという反骨の笑いだとするほうが違和感があり、単純に「利用できる制度は真似する」という有吉の素直で悪魔的な思惑の結果と考えたほうがいい。


以前有吉は「芸能界に存在する“広島”利権をアンガールズに奪われた」と発言したことがある。「秘密のケンミンSHOW」のようなご当地タレントを必要とする番組に呼ばれる回数が、同郷広島出身のアンガールズの出現により自分のところに回ってこなくなったという。もっとも今では有吉のほうにまた戻ってきたような気もするのだが、とかく有吉が「利権」に執着を見せるのはこういう経験からなのかもしれない。


最後に余談となるが、番組中で使われたBGMはご丁寧に「一発屋」と呼ばれる人たちの曲だった。元々「一発屋」という言葉は音楽で1曲ヒットを出した人に与えられる称号だったのだから、当然といえば当然かもしれない。ただ、ブレザー贈呈の時に流されていた「愛は勝つ」(KAN)は、北海道の人を敵に回したような気がする。スープカレーの時といい、どうもそういう些細な点で引っかかるんだよなあ。