間口の広さ

「つっこむクイズワンダース」が面白かったです。


NHKが放送している生放送の「クイズ」番組。出演者は女性ゲストひとりのみ。その女性に対して天の声の男性ナレーションが12択(1ダース:ワンダース)のクイズを進行していくのだけども、回答者は視聴者。女性ゲストはあくまで「クイズがどうなっているか」を見て喋るだけ。いわばテレビの中の視聴者と回答者の立場が入れ替わった形になる。以前女性ゲスト壇蜜、天の声ピエール瀧という組み合わせで放送されたものも面白かった(特に壇蜜が終盤で本領を発揮した)のだけど、今回放送された木南晴夏×八嶋智人および松井玲奈×八嶋智人も面白かった。


この番組は「クイズ番組」を標榜しているものの、番組中で「もうクイズよくないか」とか平気で言ってしまうような、クイズに主眼が置かれていない番組である。要するにクイズを口実に女性ゲストと天の声が雑談するのを視聴者が愛でる番組だ。twitterやメールによるリアルタイムでの反応ができるので、感覚としてはネット配信の生放送を見ているような感じなのだろう。地上波デジタルに移行してからずっと模索し続けている「双方向」の展開は、結局ネットの真似事が一番しっくりくるという結論を見せられたかのようでもある。


結局は美しい女性が深夜に何か喋っているだけで満足なのであり、それ以上でも以下でもないというこの番組のある種の潔さが面白さを生んでいる。なかなか民放でここまでシンプルな番組は作れないんだろうなあ、と思う。


というわけでこの番組は完全に「クイズ番組の皮をかぶったリアルタイムトーク番組」であることははっきりしているのだが、あくまで自分はこの番組をクイズ番組の側面で捉えてみたい。


まず「12択」というクイズ番組はなかなか存在しない。なぜなら12択も作るのは手間であるし、そもそも12も選択肢がある意味が薄いからだ。答えは一つなのだし。しかしこの番組は選択肢そのものが「トークのつまみ」になっているわけで、いわば「捨てる」選択肢はひとつもない。トークのつまみを作っていると思えば選択肢も無意味ではないことになる。ここらへんの発想は上手いと思う。


また、トークが主眼であるだけに、クイズとしての難易度が低い場合は「もう正解出しちゃいましょう」と、あっさり流すことが出来るのも強い。わかりきった問題を引っ張られることがないというのは、クイズを見る側にとっては結構心地よいものである。難易度が高かったりすると不正解に投票が集中していることもあるので、それはそれで面白い。


しかし何よりこの番組のシステムが優れていると思うのは「視聴者がリアルタイムに正解を投票することに関し、正解だろうが不正解だろうが知ったことではない」という点だろう。


クイズ番組の楽しみ方は大なり小なり「正解すること」である。特にテレビで双方向を用いてクイズを行う場合は、視聴者がクイズに参加し、その正解数・正解率を競ったりすることが少なくない。現にNHKでもそのような番組をやっている。もちろんこの番組も視聴者がクイズに参加するのだけど、そのクイズの正解率や正解数がどうだ、ということは一切やらない。これは案外出来そうで出来ない発想だと思うのだ。そもそもこの番組は「トーク番組」なのだから、クイズを集計する必要なんかないという思想なだけかもしれないけども。


自分がこの「リアルタイムなのにも関わらずクイズの集計がないがしろ」という部分に惹かれるのは、「調べて答えたところで何の意味もないよ」というメッセージを勝手に感じるからだ。


ネットで調べれば大抵のことは分かる。ありがたい世の中です。しかしそれはクイズにとってみれば「時間さえあれば答えが分かってしまう」ということでもある。今の世の中ウルトラクイズの第一問は前もって発表なんかできないわけです。ちょっとの時間さえあれば自分の知識ではなく正解にたどり着くことは難しくない。


もちろんクイズを作るほうも「調べてもなかなか答えにたどり着かないもの」を目指しているとは思うのだけど、量産は難しい。ここらへんのジレンマがクイズの制作側にはきっとある。じゃあいっそのこと「調べられたところで別にいいよ」というスタンスにしてしまえばいい。リアルタイムで投票はさせる。しかし正解したところで別に何の意味もない。だったら調べてまで答える必要もない、ということになる。結果的にクイズをクイズとして楽しむための仕掛けとして有効なのではないだろうか。


トーク番組としても、そして実はクイズ番組としても優秀な「つっこむクイズワンダース」。レギュラー化は難しいかもしれないけど、月イチくらいでゆるーく放送してくれれば欠かさず見るような気がします。ぜひ次回作を。