そんな事実は存在しないとでも

何も書くことないんで「金八」についてちょっと書いておこうかなと。


最初のほうで触れたっきり殆ど触れていなかったように思う金八の第8シリーズでありますが、一度も見逃すことなくちゃんと全部見てます。これも一度書いたように思いますが、シリーズでは初となる視聴率一桁が第5話以降ずーっと続いており、数字的には「こりゃつまらん」の烙印を押されたままずっと惰性で続いているような印象なのですが、中身からすればそこまで酷いものではないと。


もちろん第4シリーズからの金八ファンでありますから、ある程度の贔屓目があることは否定しませんけど、それでも数字程度の内容だとも思わないんです。そりゃいきなり「私は守護霊が見える」とか言い出した第16話を飲んでいたとんこつスープを吹き出しましたが(とんこつは嘘ですが守護霊が見えるという内容は本当だから困る)、内容の突飛さからいけば、前作第7シリーズよりは全然マトモであると断言する。


これも第8シリーズが始まった当初に書いたことであるが、今回は今までの金八シリーズを彷彿とさせる大事件が起こらない。第5シリーズの兼末家に起こる事件、第6シリーズの上戸彩が演じた性同一性障害と加害者の家族の件、そして第7シリーズのドラッグ。いずれも大ネタであり、この話だけで2月の山場の放送は持ちきりになる。しかし今回は一切そういうことがなく、非常に淡々としている。


強いてあげれば年が明けてから大将(亀井拓)の父親で多少引っ張ったくらいで、これならば前半のサトケン(廣瀬真平)の引きこもりのほうが長かった。しかしこれらのエピソードもシリーズを通しての目玉となるエピソードではない。この後も美香(草刈麻有)のエピソードが出てくるだろうが、やはり歴代のエピソードと肩を並べるような大きさではないだろう。しかしまあこれでいいのである。


よく金八を批判する方は「あんな教師いない」と言うのだ。簡単に言えばリアルじゃない。確かにあの大問題に対して金八ひとりの力でどうにかなる問題ではないし、その対処法にもファンである自分ですら「これでいいのか?と思えるようなフシがたくさんあった。しかし今回の瑣末な問題群(とはいっても、登場人物にとっては大きな問題ではある)の発生とそれに対する金八の処理は、金八の教師としての職分をまっとうしている極めてシンプルで等身大(という言葉はあまり好きじゃないんだけど)の振る舞いであるといえる。


もちろんその処理ですら現実に即してみればリアルじゃないのかもしれないが、教室でドラッグ中毒を発症させ、床にこぼれた水を舐める姿を目の当たりにして「ドラッグを憎め!」と叫ばれるよりは全然リアルであると言える。無論そういう場合のリアルがどうなのか自分にはわからないので、もしかしたらドラッグ問題の処理は超リアルなのかもしれないが、そうなってしまうともう自分がドラマから感受できる想像の範囲を逸脱しており、ちょっと困る。


それでは前回の金八では何をやったかといえば、受験前日に告白してフラれたりな(萩谷うてな)のために、金八が「恋」をテーマにした短歌を3B生徒に作らせるという最高にほのぼのした内容である。3年前の同じ頃に「ドラッグを憎め!」とやっていたのとは同じ教室とは思えないほどの落差である。大きな問題に直面することに金八の意味を見出している方々には当然に物足りないのだろうが、自分はエスカレートしすぎた金八と今作の金八では、断然今作を支持する。もっともこの落差が生じたのには複雑な事情が介在するようだがここでは敢えて省略。


大袈裟な事件を起こさないのは脚本家清水有生の方針のようだが、その方針のせいなのか第7シリーズに出てきた生徒が今作では一切登場しない。前作ではさらに前作の生徒だった上戸を大々的にフューチャーした回を2時間SPで放送したこともあったし、また前作の生徒がこぞって登場した回があったりとかなり連綿とした空気を出していたのだが、今回は第4シリーズに出てきたラーメン屋の息子修一(佐々木卓馬)がラーメン屋として度々登場するくらいで、前作との繋がりは殆ど見せない。もちろん明子(大川明子)は別。しっかしあのオバサン相変わらず演技下手だよなあ。


金八でありながら金八ではない。いい意味でも悪い意味でも、今回のシリーズはこの言葉が本当にしっくり来る。まるでシリーズものであることを拒絶しているかのようだ。例えば今の金八に「丸山しゅうはどうなったんですか?」と聞けば「丸山?誰それ?」と答えそうなそんな感じ。自分はこういう割り切り方が嫌いじゃないけど、やっぱり物足りないのは確か。前作までのやりすぎに歯止めをかけることは自分も賛成なのだが、だからといって前作からの繋がりを見出すことが出来ないし、その上金八らしさともいえる大きな事件も説教も聞けないとなれば、これはもう既に金八ではないのかもしれない。


ドラマの中で前作までの大袈裟な事件をまるで無かったことのようにしたくてたまらない今作。しかし金八の歴史からすれば、おそらく今作が数字的にもなかったものとして扱われるような気がしてならない。どこまで行ってもきちんとした評価が受けられないのであれば、それは色んな意味で不幸な作品である。