知ってることは偉くない

最近のCMはやたらと昔の曲を使っている気がしませんか。


日産セレナのCMでは「まんが日本昔ばなし」のエンディングテーマである「にんげんっていいな」をガガガDXが歌っているし、トヨタシエンタのCMでは横浜銀蝿の「しりとりロックンロール」が歌われている。またサントリーの白なっちゃんでは村下孝蔵の「初恋」がゴーイングアンダーグラウンドのカバーで歌われている。また、ちょっと変則的なところだと大泉洋が出演しているキリンFIREのCMでは爆風スランプの「無理だ!」が替え歌で歌われていた。これらは一例であるが、この他にもまだまだあると思う。


これらは全て20世紀、つまり2000年以前に歌われていた懐かしの曲に分売りされるわけで、平成生まれには聞き覚えがない。一応昭和生まれの自分くらいの年齢からは「あ、聴いたことある」のレベルになり、もうちょっと上の世代になってくると元の曲を誰が歌っていたかまで判別できるだろう。さらに上の世代になると、また分からなくなる。分からない世代にとっては新鮮であり、分かる世代にとっては懐かしい。そしてこれらのCMは「分かる」世代がメインのターゲットになっているわけで、つい口ずさんでしまう気軽さがあるしそれが狙いなんだろう。


音楽的素養がないのであまり大きなことは言えないが、昔の曲は歌詞も然ることながらメロディラインが素晴らしく個性的であり、今氾濫している曲よりもよっぽどインパクトがあったりする。だからこそ起用されるのだろう。


さて、これらのCMに起用されている曲であるが、自分のようなテレビクソ野郎(有吉が呼ぶ品川の如く)には割と何の抵抗もなく「ああ、あの曲だな」と分かってしまうわけであるが、おそらく自分の同世代に聞いても、これらの曲のオリジナルの曲名と歌手を正確に答えることが出来る人間は数少ないだろう。


テレビクソ野郎な自分からすれば「なんでこんな有名な曲も知らんかな」とついつい思ってしまうのであるが、これはやっぱりいけないことなんだと認識を改めなければならないと思った。なんて自分は傲慢な考えだったのだろうと。いや別に他人にそういうニュアンスで知識をひけらかした挙句に説教たれたことはありませんが、それでもちょっと反省したのです。


日産ノートのCMに登場するオカマの双子、ローズとマリーはご存知だろうか。


おすぎとピーコを模したかのようなオカマの双子、ローズとマリーが「おすぎです」「ピーコです」の挨拶よろしく「ローズです」「マリーです」と登場し、日産ノートを作っていくという、割と意味が分からないCM。インパクトは強烈だが、なぜあのようなCMを作ったのか最初見たときは意図が全く見えなかった。


でまあ、自分は何の疑いもなくあれをおすぎとピーコのパロディであり、あんな双子のオカマというオリジナルキャラがCMに出てくるというシュールさでもってインパクトを出したいのだろうな、と漠然と思っていたのだ。


しかしこれが調べてみると全く違う。あれは「The World of GOLDEN EGGS」というアニメにおいて実際に登場するキャラクターだというのだ。もちろん「ローズ」と「マリー」というキャラ造形はおすぎとピーコがモデルになっているのだろうが、重要なのはこのキャラクターが突拍子も無く日産ノートのCMに登場したわけではなく、「The World of GOLDEN EGGS」のアニメから登場願った扱いであるということ。正直なところ、こんなアニメ及びキャラがいるなんて全然知らなかった。


そしてCMで何の脈絡もなくノートを作っているわけではなく、アニメの中でローズとマリーは料理番組を担当しているらしく、その設定を生かして料理ではなくノートを作っているということらしい。だからあのCMは「何の脈絡もなく双子のオカマが自動車を作る」ではなく、「アニメのキャラ設定を生かして自動車のCMだから自動車を作る」という、アニメを知っている人と知らない人とでは全く文脈が違ったものになるのだ。一体どれだけの人があのCMに関してこういう認識で見ているのだろう。


The World of GOLDEN EGGS」というアニメがどの世代にどれだけの知名度があるのか自分は知らない。少なくとも自分が知らなかっただけで、CMで流れても、「あ、The World of GOLDEN EGGSのキャラだな」と分かるほどに世間には浸透している可能性も否定できない。ただ、仮に超有名だったとして、このアニメを知っている人間に「何でこんな有名なアニメも知らんかね」と言われても、「そんなこと言われても知らんものは知らん」と言うしかない。


これって昭和のCMソングを知っている知らないの話と全く変わりがないことに身をもって気付かされた。知っていることが別に偉くもなんともないし、知らないことが別に恥ずかしいことでもない。そういう類の話でしかない。


所詮CMで起用されるものなんて全員が知っているものということはなく、知っていれば知っている人が楽しめるというレベルのものに過ぎない。だからこそ知っていれば知っていることで愉しめばいいし、知らなければ知らないで別に構わず、また知らない人がいれば謙虚に教えてあげればいいだけの話なんだろう。間違っても知っていることを鼻にかけるもんじゃあない。


もし周囲に、「このCMの曲って元の曲は××なんだけど、みんな知ってて聞いてるのかな」とか偉そうに抜かす輩がいたら、ローズとマリーはなんで日産ノートを作っているのか聞いてみてはどうでしょう。知ってれば「ああ、知ってるんだ」と思えばいいし、知らない場合は教えてあげたうえで「知ってることは別に偉くないんだよ」と諭してあげればいいんです。