「逆チョコ」という地獄

毎年2月14日といえば秋野太作の誕生日として有名ですが、それ以外にも「バレンタインデー」というごく一部で盛り上がっているイベントがあるらしいじゃないっすか。まあ自分は地方在住なのであまり関係のない話ではあるんですけど(博多大吉談)。


それはともかく、バレンタイン時期になるとテレビでもそれを匂わせるようになってきます。朝の情報番組でもチョコを取り扱ったり、そのBGMには「バレンタイン・キッス」が流れたり(今年あたりはPerfumeの「チョコレイト・ディスコ」も大量に流れそうだが)、そしてCMでもバレンタインを意識したものが流れはじめます。


大抵はアイドルが「本命のあの人へチョコ」みたいな王道のCMであります。今年だと木下優樹菜水沢エレナがふたりでチョコを作っている明治のCMがよく流れているように感じます。そういや沢ケツさんが楽しそうにチョコを作っているCMも明治でした(2007年)。


なぜこのようなCMなのかといえば、言わずもがな「バレンタインデー」とは「女性が好きな男性にチョコを渡す」というイベントだからであり、なかには「女性が男性に告白してもいい日」だなんてことも言われます。まあ現代ではどっちからしようと別に構わん気はしますが、そういうイベントが女性の後押しをしているというのもまた事実でしょう。特に10代の中高生はそういうもんだと思います。


しかしそんな「イベント性」がチョコレート業界による演出だということは多くの方がご存知でしょう。国内のチョコレート消費の大部分をこのイベントが担っているわけで、チョコ業界としてはどんな手を使ってでもチョコが売れればいい。当然であります。ま、この言い分を持ち出すようになると「モテない」レベルがひとつ上がるんですが。自分はそこからさらに半周して「めっちゃチョコ欲しい」の領域にいます。


話を戻す。そんなもんだからここ最近では、女の子が友達同士でチョコを渡す「友チョコ」なんてのも登場しました。いつもあげるのは女性のほうで食べる機会がない。友達同士食べたいチョコを渡して楽しもうという、本来の趣旨からは離れているものの「女性がチョコを渡す」という意味ではまだ許容範囲ではあると思う。


しかし、今年になって森永が言い出した「逆チョコ」は酷い。こともあろうに「男は貰うのを待ってないで、好きな女にチョコあげればいいじゃん」だもの。もうチョコ売れれば何でもいいのか、というレベルを通り越している。「そっちのほうが点数入って盛り上がるから」という理由でサッカーで手を使うことが許されるのと同じくらい酷いルール改正だと思う。


これには森永の布石があって、ちょっと前に「女と男のバレンタイン意識調査」というアンケート結果を発表している。以下はそのアンケートの結果の記事。全文引用してみる。

森永製菓が2008年1月7日に発表した「女と男のバレンタイン意識調査」によると、ほとんどの女性(90.8%)が本音として「もしもらえるものなら、バレンタイン時期に男性からチョコをもらってみたい」という「逆チョコ」願望を抱いていることが分かった。

 チョコを贈る立場の女性だが、69.7%が自分にチョコを買った「マイチョコ」経験があり、89.6%は彼や家族に贈ったチョコを自分も食べたと回答。女性の多くが「自分もチョコを食べたい」という欲求を、自身でチョコを買ったり、人にあげたチョコを食べたりすることで満たしていることが分かった。

 一方、男性の85.9%も、バレンタインに男性から女性にチョコや花などのプレゼントを贈る海外の風習を「良い風習だと思う」と回答。身の周りの女性に「どんなものでも良いからチョコが欲しい」といわれれば、91.3%が「チョコをあげる」と答えた。

 調査は2007年12月4、5の両日、20〜30代の女性412人と男性206人を対象にインターネット上でアンケート形式で実施した。

この記事を読むといかにも「女性はバレンタインにあげるだけでなくチョコを欲しがっている」し「男性もバレンタインにチョコをあげることに抵抗がない」みたいな印象を受けるが、どう考えても結論ありきのアンケートである。「もしもらえるのなら」「どんなものでも」というハードルを下げる言い回し、どんなものであれ他人にプレゼントを贈る風習を日本人は少なくとも「悪い風習」とは言うまい。こんなものを根拠に提唱される、いや結論ありきで根拠となるべくアンケートを誘導した「逆チョコ」という観念に、いち非モテ男性として、いや日本の全男性を代表して

ふざけるな

と言いたい。


CMも腹立つ。単にイケメンの山本裕典が逆チョコを提唱しているだけなら「はいはいイケメン限定ね」と華麗にスルーされそうなもんだが、ここに高田純次が「逆チョコでウッハウハ」みたいなことを言ってくるのが狡猾。「高田純次がCMでやってる」という時点で「これに真剣に目くじら立ててるのは遊び心がない証拠」という「モテ大人の余裕」みたいなものを持ち込んでくるのだ。自分のように反論する時点で「バレンタインはチョコ業界の陰謀」と強がるのと同じレベルに持ち込もうとするいやらしい戦略だ。


これがもし「非モテにもチャンスが出来るかも」という立脚点だったならまだしも、結局「逆チョコがトレンド=オシャレ=モテ」という、本来チョコを貰える側のモテの思想に立脚した企画なのが一番腹立たしい。今のバレンタインは非モテの女性が男性にチョコをあげることは厭われないけども、「逆チョコ」では、非モテの男性が女性にチョコをあげることは「キモい」で一蹴される感じですよね。ただでさえバレンタインに厳しい非モテにさらに鞭打つ気なんだろう。冗談ではなく「逆チョコ」を思いついたヤツは朝青龍に「逆チョコ」に関する記憶が飛ぶまでぶっとばされればいいと思います。自分はチョコ好きですし森永が売ってる「ダース」も好きだったんですが、暫く森永のチョコは食べないようにしたいと思います。



男根主義と言われてもいい。実際もらえなくてもいい。男はバレンタインにチョコをあげるのではなく貰うのだ。そうでしょ?