逆マジックミラー号なのよ

ナインティナイン岡村隆史のラジオでの発言が軽く炎上しております。

 

簡単に要約すれば「今は風俗行くのも我慢しなければいけない。しかしこのコロナが収束すれば、普段では絶対に出てこないようなレベルの娘がお金が足りないがために期間限定で登場する。今はそれを楽しみに我慢しよう」というもの。岡村からすればいつもの風俗トークをからめた岡村なりの「在宅で頑張ろう」という話なのだが、これが「女性軽視もはなはだしい」と怒りを買っている。

 

確かに発言の要旨だけ捉えれば、あまり褒められた発言ではないだろう。生活に苦しくなった女性が否応なしに風俗で働くことになり、それを悪い言い方をすれば「食い物にしたい」と言っているのだから、そりゃあ反発が起きるのも当然だ。だから発言の中身だけ捉えれば怒られるようなことは言っているというのが自分の認識だ。異論はあろう。

 

しかし一方でこれは「岡村隆史のANN」という媒体での発言だ。これをラジオといういわば「誰でも聴けるものでの発言」と取るか、「DJとリスナーの共犯関係の場所」と取るかによって、捉え方は大きく変わってくる。

 

前者で捉える人は「間違っていない」けども「発言を正しく理解はできない」人だ。一方後者で捉える人は「ラジオの発言を正しく理解できる」けども「間違いに気づかない可能性がある」人だ。以下説明。

 

今回の発言は、岡村隆史という人間が25年かけて作り上げてきた「オールナイトニッポン」という城においてのものである。聴いているのは岡村隆史という人間に心酔している、あるいはそこまでではなくても「ラジオの岡村隆史がどういう人か知っている」人間だ。だから今回の発言も「岡村さんはラジオでそういう事言う人だし、今更何を言っているんだ」と言うだろう。自分も今回の発言単体でいけばそう思う。今回に限らず、ラジオでの岡村はこういう事を言う人間だ。だからラジオを知っている人間は、この発言に対して特別岡村が暴走しているわけでもないし、そこに女性軽視があるわけでもないことを知っている。なんなら風俗嬢に対してリスペクトがあることすら知っている。正しい理解だ。

 

しかし一方で、この理解が正しいからこそ「そういう岡村隆史が持っている思想が危うい」ことに気づかないこともある。「岡村隆史がこういう人間だ」という理解は正しくても、その思想が問題ないかはまた別の話だったりする。間違いを承知しながら、それでもその全てを愛するのは問題ないけども(間違っていることに対して自分なりの折り合いをつけているから)、そうでなければ実は厄介なことでもある。

 

一方でラジオの外側から見る人には、岡村の発言はひたすら女性軽視の発言にしか見えないし聴こえない。それは「ネットの記事を読んだ」レベルでは当然であり、また「今回の放送を聴いた」だけでもまだ足りない。今回の放送だけでは「岡村はどういうつもりでこの発言をこの放送でしているのか」はやっぱりくみ取れない。これが今月から始まった番組であるならまだしも、25年続いているラジオの1回だけを切り取って分かった気になるほうが「どうかしている」のだ。岡村の発言の表層が「どうかしている」と思うなら、今回の発言だけを切り取り批判するのも同じくらい「どうかしている」ことに、本当に冷静に岡村の発言を非難したいのなら気付かなければいけない。

 

ではかくいう自分はどう思っているのか、といえば「今回の発言のみで叩く気にはとてもなれないけど、そもそも岡村さんはそういう思想が根底にあるし、これを含めた岡村隆史の人間の思想はあまり共感できる部分がない」である。

 

自分はテレビも好きだけどラジオも好きな人間なので、ラジオもそこそこ聴いているほうだ。しかしANNの中では一番の古株であり、いまだ驚異的な数字を叩いている岡村ANNは聴いていない。理由は簡単、あんまり面白いと思わないからだ。

 

もちろん「全く面白くない」ということではない。もちろん聴いたら面白いこともあるし、いわゆる「スペシャルウィーク」なんかは聴くこともある。だから全く聴かないわけではない。しかし通常回にする岡村本人のトークには正直あまりピンとこないのだ。その理由は「岡村の社会問題などに対する造詣が薄っぺらい気がする」というもの。もちろんこれは自分の主観であり、異論はあるだろう。けど自分にはそれが「毎回聴くほどのもんじゃない」と思わせる最大の理由である。

 

そんなこともあり、自分は岡村が持っている思想が「あまり自分と相容れるものではない」と感じている。だから今回の岡村の発言も「自分は好きじゃあないけど、まあ岡村なら冗談交じりに言ってしまうだろうなあ」とは思う。風俗がらみのトークも今に始まった話ではないし、岡村本人にそこまで悪気があったわけじゃないことも想像がつく。

 

だから「今回の発言だけを切り取って怒るのはちょっと理解が浅い」とは思いつつも「岡村がそもそも持っている思想は若干気持ち悪い」というのはまた間違っていないとも思う。今に始まったことではなく、岡村の考え方はずーっとこんか感じだ。今怒るくらいならずっと前から怒っておけよ、と思う。

 

 

これは「今のラジオの在り方」を示すとてもいい例なのだと思う。やはりラジオの魅力は前述したように「DJとリスナーの共犯関係」にあるのは間違いない。しかし一方でラジオはradikoの普及、YouTubeなどでリアルタイム以外でも聴けるようになったことから、「個室の狭い関係」であると同時に「個室の中身は丸見え」になってしまっているのだ。いうなれば「逆マジックミラー号」だ。

 

マジックミラー号」は外からは見えないけど中からは外が見える、というシステムで周りの人に見られていると錯覚しながらプレイに興じるというSODの大発明であった。しかしそれも最近はだいぶマンネリ化してきたのだけど、そこに登場したのが「中からは普通の部屋だけど、外側からは丸見え」という、「逆マジックミラー号」である。見られてないと思っていたものが実は丸見えだった、というプレイ終了後に羞恥心が襲ってくるという女性軽視も甚だしい一品(女性にはプレイ内容を説明しています)。これがマジックミラー号史、ひいてはAV史におけるさらなる発明になったのだ。

 

そんなAVの熱い解説はどうでもよく、今のラジオは「自分たちは内側でやっているつもりでも、実は外から丸見え」の状況にある。それは広くラジオの魅力を伝えることが出来るチャンスでもあると同時に、この共犯関係が崩れかねない危うさもある。しかしここまでメディアが発達してしまったのだから、いつまでも共犯関係「のみ」に甘えるのは難しいだろう。その魅力も生かしつつ、「外側に見られている」という意識も必要になってくるのかもしれない。

 

自分はリスナーとして完全に「共犯関係の内側」にいる人間であるし、DJに偉そうに「見られている意識が必要だ」なんて言える立場じゃあない。けどもこういう事件が起きると「せっかくの遊び場を自分で壊さないように気を付けてはほしいなあ」とはちょっと思う。そしてラジオの発言に条件反射的に噛みついてくる人間は「とりあえずラジオとは何かをもう少し学んでからかかってこいや」とも思う。

 

こういう悪良識にテレビは半分壊されかけている。ラジオまで壊されてたまるかよ。