元祖名乗るべからず

テレ東の「大食い」において、照英があっさりと司会を降板させられる。


半年に一度くらい放送されるテレ東の「大食い」特番。一時期の大食いブームを牽引し、そして他局の早食いを真似した死者が出たあとの自粛ムードを経てから変わらずにずっと続けている長寿番組。自分を含めた固定ファンは多い。


その「大食い」特番は、2年前の2016年に一大転換期があった。長年大食いの司会を務めてきた中村有志が、体力の限界を理由に司会を退いたのだ。大食いを妨げない司会の腕はもちろん、出場者に「絶妙にダサいニックネームをつける」ことも大食いの醍醐味だった。今ではお馴染み「ジャイアント白田」「ギャル曽根」など、全て中村の作品である。改めて書いてみても絶妙に分かり易く、ダサい。


そんな大事な職務を引き継いだのが照英だった。照英がそもそも持っている熱さを前面に押し出しつつも、中村のダサいニックネームテイストも引き継ぐなど、まだまだ心許ない部分はあったが、照英なりに奮闘していたと思う。


それが今回、司会が高橋みなみにスイッチされた。これは裏切りである。


今回放送された高橋みなみの司会っぷりは「多少うるさいが、こなれたもの」であった。さすがの芸歴である。高橋みなみの好き嫌いを除けば、照英から変更されたところで特に文句が出るような人選でもないように思う。仕切りだけを考えればそのスキルは照英より上だろう。


しかし、この番組は「大食い」なのだ。単に司会が上手いだけでは務まらないのである。なぜなら、大食いの司会には前述したように「絶妙にダサいニックネームをつける」という責務があるのだ。そんなの誰が決めたのか、と聞かれれば「自分だ」と言うしかない。しかしこれは絶対である。大食いの司会である以上、ダサい名前を付けるのは責任であり義務である。それが高橋みなみに務まるか。答えはNOだ。


もちろん照英が中村有志と同じレベルだったとは思わない。そりゃそうだろう。キャリアが違うのだ。しかし照英はちゃんと「中村有志の魂」であるところのダサい名前をつけようとしていた。定着するようなものはなかったけども、そこに魂を感じているかいないかは、30年の歴史を誇る「大食い」にとって何より大事なことじゃないのか。


今回優勝したアンジェラ佐藤も、そして優勝しなかった魔女菅原も、決勝に進んだロシアン佐藤も、全て中村の作品だ。ロシアン佐藤さんは名前の由来である「ロシア人がかぶってそうな帽子」はもう一切かぶっていないんだけど、それでも「ロシアン佐藤」と呼ばれているのだ。中村有志の魂を感じずして何がロシアンだ。


照英を降板させるということは、中村有志の魂も降板させるということ。それは今までついていた中村のニックネームを棄てるということにもなる。だから今回の放送では「魔女」も「アンジェラ」も「ロシアン」も全て使うべきではなかった。もえあずが何の事情で出場しなかったのか知らないが、もえあずと照英とともに、全ての名前は返上すべきだったのだ。


今回番組自体もリニューアルの意識が強かったようで、ブーム終了後名乗り始めた「元祖!大食い王」の名前を変更した。照英の降板もその一環なのだろうよ。しかし自分から言わせれば、番組は自ら「元祖」を名乗らなくなったのではない。中村の魂を継承した照英と共に「元祖」を棄て、「元祖」を名乗る資格を失ったのだ。


歴代のレジェンドを出場させ、アンジェラ佐藤が優勝した。そんなアンジェラももう40代。菅原さんは50代だ。とても大食い新時代などと言ってる場合ではない。この先番組はちゃんと生き残るのだろうか。「元祖」とともに番組が消滅しないことを願う。百歩譲ってたかみなはいてもいいから、ちゃんとその横には照英を置くべきだ。