「そんなバカなマン」が軽く放送事故でしたね。いや面白かったんですけど。
どんな内容だったのかといえば、「初心に帰る」という名目で、バカリズムが夢を追いかける人の家にホームステイして夢のお手伝いをするというもの。まあ企画だけ聞けば家族がヌルく見られるバラエティのような感じもするが、そこはなかなかクレイジーなスタッフが繰り広げるバラエティですので、そんな一筋縄ではない。
バカリズムが訪れた先はユーチューバー。もうこの字面だけでかなりヤバい雰囲気満載だが、もちろんヒカキンのような有名な人ではなく、底辺も底辺、ド底辺のユーチューバーだ。自分がこの後内容の続きを書かなくてもどれだけ悲惨なことになっているかは想像に難くないだろう。
かつて「水曜日のダウンタウン」でドランクドラゴン鈴木拓が「下層ユーチューバー地獄説」を唱え、その検証ＶＴＲはまさに地獄だったのだけども、オチとして波田陽区が出てくるという優しさを最後に見せていた。*1ちなみにこの回の「水曜日のダウンタウン」にバカリズムはゲストとしてスタジオで下層の有様を見ている。
バカリズムはお笑いに関して、とてつもなくプロフェッショナルな人間である。それがよく分かるエピソードとして、日本映画学校に通っているときに芸人志望だったお調子者の同級生に対して、「使い古されたモノマネを何のアレンジもなしに堂々と披露する」「何か自分で生み出すという意識がない」など、芸人としてのセンスがないことを「聞かれたから仕方なしに答えた」というエピソードがある。このエピソードから伺えるのは紛れもないバカリズムの「芸人としての意識の高さ」だろう。ゼロからイチを生みだす苦しみを素人の頃から意識していたのだ。それはやっぱり売れるべくして売れる人間だろう。
一方のユーチューバーといえば、もうこれが「アマチュアの極み」みたいな存在である。ちょっと面白いことして金を稼ごうくらいの気持ちしかない奴らの集まりだ。「〜〜やってみた」という定番のタイトルからも分かるように、思いつきで体を張るだけ。そこにクリエイティブな要素は皆無である。まあ小道具を使って動画を撮影するという行動力だけはあるんだろうが。そんな両極端に位置する人間が番組とはいえ会するわけだ。何かが起こらないわけがない。バカリズムからすればユーチューバーなんてものは唾棄すべき存在でしかないんだもの。
実際登場した40過ぎの本当にどうでもいいユーチューバ―。「今まで生きてきてお笑いを見たことあるのかな？」と疑わざるを得ないロウクオリティ（あんまり使わない言葉すぎて自分で使うのもちょっと恥ずかしい）。全身から漂う「ダメ」な感じ。ダメ人間特有のこだわりに軽くキレるバカリズム。クソも面白くない動画撮影に付き合わされた挙句にキレられるバカリズム。バカリズムの視点からすればこれ以上ない悲劇だが、この悲劇を俯瞰で見ると喜劇になることをバカリズムは知っているのでこらえますよね。それが面白くて仕方ない。
ユーチューバー自体（そしてバカリズムが協力した動画そのもの）が「やろうとしていること」は１ミクロンも面白くないんだけども、その画面全体から醸し出される滑稽さが番組を成立させている。残酷だなあ、と思った。
昔から「ダメな素人」は腐るほど存在していた。それは素人参加型の番組において、その後本当に芸能人になるような原石も少なからずいるのだが、大多数はどうしようもない素人ばかりだ。そしてかつてのテレビはそのような素人を「どうしようもない人」として扱う術を持っていた。今回の「そんなバカなマン」の扱いも「どうしようもない人のどうしようもない様を笑う」という、一番残酷なやり方である。そうする以外本当にどうしようもない人向けの処理だろう。他人事であれば本当に面白いんだけど。
いまや「痛い素人」は瞬く間にネットで拡散され、特定され、攻撃される。だからよっぽどのバカかよっぽどの自信がない限り、素人はテレビにおいそれと名前や顔を出さなくなった。深夜とはいえ全国放送でこんなもの流されたら、普通の神経ではやっていけない。ネットのなかった時代は「その地区でちょっとした有名人」になるくらいで済んでいたんだろうが、いまや全国に晒される時代。ネットで検索すればすぐ顔と名前が出る。こんな恐怖ないだろう。
だからこそ、今どうかしている素人を捕まえてくることは難しい。しかし底辺ユーチューバーはゴロゴロいる。どいつもこいつも顔出しでしょうもないことを「自ら」やっている。こんなテレビにとって都合のいい「どうしようもない素人」がいるのだ。そりゃテレビだって手を伸ばしたくなる。どんなにムチャな扱いでもいいのだ。彼らは、顔を売りたい。そして金を儲けたい。いくらテレビが「どうしようもない素人を笑う」というゲスな考えでもって彼らを使い捨てにしようと、彼らは「金儲けになる」というもっとゲスな思考で、そうされることを望んでいる。
しかも彼らは顔が売れたことで動画の再生回数が少なからずも上昇し、間違いなく調子に乗る。ここで調子に乗らないようなメンタルの人間はユーチューバーなんかやらない。調子乗って「自分は面白いんだ」と勘違いをする。その勘違いがまたテレビの前で「どうしようもない」扱いをされる。まさに泥沼、蟻地獄。みんな気付いているのに、誰も教えてくれないのだ。こんな残酷あるか。そしてそれが定期的に流されるようなテレビは、まさに地獄だ。
テレビのバラエティ番組が下層ユーチューバーを今に増して食い物にする日が来ると思うとゾっとする。面白いんだけど、テレビ側はなんとか自重を。それはお互いのために、棲み分けしようってことで。頼む。
