不毛視聴者

不毛地帯
唐沢寿明主演のドラマ。山崎豊子原作。


はっきり言ってこれさえ見れば今、そして次クールのドラマは何も見なくていいくらいの出来だと思った。初回放送分2時間18分があまりに短く感じる出来。主人公壹岐(唐沢)がシベリア抑留を経て近畿商事に入社、そして航空事業部への配属を願い出るところまでを一気に描く。シベリアで捕虜の日本兵が次々と倒れていき、おびただしい数の墓標が大地に並ぶシーンは涙無しでは見ることが出来ない。アーリントン墓地との対比描写の見事なこと。


ドラマとしての濃密さが他のドラマを完全に圧倒しており、これから他のドラマを見るときに物足りなさを感じて仕方ないのではないかと思えるくらい。ドラマの質と視聴率は必ずしも比例しないけども、ここまで圧巻のクオリティであれば初回25%は堅いだろうと思っていた。しかし蓋を開けてみれば初回の視聴率は14.4%だという。これは一体どういうことか。


まあ普段自分は「ドラマの初回で2時間も放送するのは暴挙もいいところだ」と発言している。なぜなら面白いかどうかも分からない「お試し」の段階で2時間も視聴者を釘付けにするには、初回からがっちりと視聴者を掴む必要があるわけで、テレビ局自らそのハードルを上げているとしか思えないからだ。また、見ようかどうか迷っている視聴者にとって1時間ならば「まあ見てみよう」という気にさせるものの、初回から2時間もあるのでは「まあいいや」となりかねない。事実自分がそう思う。


だから初回から2時間もあるドラマを自分はあまり評価したくはないのだが、こと「不毛地帯」に限っては、2時間18分という放送時間に蓋然性以外感じられなかった。初回から一気にあそこまで描かざるを得ない。だからこその2時間18分。


とはいえ、自分は最初から「不毛地帯」にそれなりの期待を持っていたからこそそう思えるわけで、やはり見ようかどうか迷っている人にとっての2時間18分はハードルが高い。しかも前半1時間で描かれたのは主にシベリア抑留のシーンであり、途中でリタイアしてしまった人も多いのかもしれない。だとすれば非常に勿体無いとは思う。


また、比較対象としてはどうしても同じ山崎豊子原作で唐沢主演、そして2クール放送された「白い巨塔」が思い浮かぶ。こちらは初回放送が2時間18分ではなく確か15分拡大とかそんな感じで、視聴率は22.8%だった。「白い巨塔」の数字に対して、今回の「不毛地帯」の数字はかなり物足りない印象である。


テーマが違うとはいえ、「白い巨塔」に比べて「不毛地帯」の出来は遜色ないどころか、初回に関して言うなら凌駕しているような気すらした。だから自分としては「白い巨塔」と同じように、いやそれ以上に評価されてもいいとは思うわけで、はっきり言ってこのドラマを見なかった視聴者に対して若干腹立たしい思いすらある。なぜこんな面白いドラマを見ないかね、と。


そりゃ「白い巨塔」に比べると分かりにくい部分はあるのかもしれない。初回2時間18分という数字も必要以上に長いかもしれない。けど、このドラマを見ないで他のドラマを見てどうすると思うくらいの出来のドラマがこんな扱いだというのは、正直日本人のドラマに対する見識が落ちてるんじゃないかと思えてしまう。ドラマが面白くないとかほざく前に、オマエら「不毛地帯」見ておけよ、と。声を大にして言いたい。