あいつはいつも飛んでる脳男

・MR.BRAIN
木村拓哉主演のドラマ。


木村拓哉「CHANGE」以来1年振りの主演ということで、TBSの気合の入り方(という名の予算のかけ方)が半端ではないことは番宣の仰々しさからも容易に感得できる。視聴率一桁がザラの現在のドラマ氷河期において、唯一20%を見込むことが出来るキムタクの存在は誰が何と言おうとも日本ドラマ界のキングと言わざるを得ない。


でもって最近のキムタクドラマの傾向としては、「視聴率が見込める」→「予算がかけられる」→「共演者に金をかけることが出来る」→「いい役者をたくさん集めることが出来る」→「キムタクのワンパターンになりがちな演技をがっちりと脇で固めることが出来る」→「ドラマとしての体裁が保つ」という循環が成り立っているため、大ゴケもしないし「キムタク神話」も出来上がる。もはや敵なしだろう。


もちろんドラマを作る側も注目とプレッシャーを浴びるわけで、そうそう変なものを出すことはできないということも作用するので、確かにあまりにアレなドラマにはならない。かといって全ての出演作が面白いとも決して思わないのだけども。


で、今回のドラマはどうなのかといえば、今までのキムタクドラマを踏襲しつつも内容的には甘さが残る「イマイチ」というところだと初回を見た限りでは思う。


キャストの感じからも科警研という舞台における群像劇を狙っているんだろう。普段実地調査など行わないのに実地に赴き捜査まがいのことをするあたりなど、これは意図的に「HERO」をなぞっているのかとすら思う。「HERO」は地検、「MR.BRAIN」は科警研という違いでしかない。キムタク扮する主人公がちょっとした変人というのも、もう、ええ。


で、そこに「脳科学」という正直怪しげな要素が出てくることで煙に巻いている。もちろん脳科学脳科学として立派な研究分野ではあるんだろうが、それがこのドラマのようにさも事件の解決に直結するような類のものではないだろう。脳科学どうこう言い出さなければ「ちょっとした推理ドラマ」の範疇に収まるのだろうが、「脳科学」というよく分からない枷(と敢えて言うけど)があるせいで、「トンデモ」の領域に足を踏み込んでいるような気がする。


初回では「一度見たことのある景色ならば、脳のある部分(名前は忘れた)が反応する」という脳科学に基づいて検査を行い、事件現場を見せると言っておいてアリバイ工作に使われた場所の写真を見せて「知らない」と言わせさらに脳も反応しないというくだり。これ実は検査どうこう関係のない話である。


例えばフジで放送している「BOSS」で心理戦に長けた天海祐希が取調の際に「私にはあなたの微細な感情の動きが分かる」と言って、同じように事件写真を見せて被疑者に「この場所は知らない」と言わせれば「行ったことある場所なのに知らないと言ったのはなぜ?」という追及がそっくりそのまま可能。脳が反応するしないに関わらず「直近に行ったはずの場所を知らないとはどういうことか?」という点で自供を迫ることは可能なのだ。つまりは、ミステリにおける自白へのミスリードの常套手段を「脳科学」という分野に乗っけただけ。


多くのミステリドラマを手掛ける蒔田光治が脚本を書いていることもあり、ミステリとして一応の体裁は整っている。しかしそこに脳科学という要素をぶち込むと、さも脳科学が万能であるように見せた「胡散臭さ」が漂ってくる。今後の脳科学の取り扱い方にもよるが、ヘタしたら随分トンデモなドラマになってしまうんじゃないかと。そこは制作側が「脳科学」をどのような位置付けで取り扱うかのバランス感覚だろう。キムタク主演だからといって脳科学を万能の位置付けにするのは危険すぎる。


キャストに関しては水嶋ヒロが「演技力」「刑事なのにオシャレパーマ」という点で二重に浮いているだけで他はさほど心配要りません。


初回はキャストの顔見せやストーリーの導入など色々制約はあるので、これだけを見て面白いそうでないというのはやはり無意味ではあると思うが、それでも初回を見た限りでは期待値は低めに設定しておいたほうが無難なドラマではあるかもしれない。もしかしたら4月・7月クールのドラマ合わせて一人勝ちになるんじゃないかと思っていたが、そこまで独走はしないのかなという印象。もっとも自分が初回でそこそこ褒めた「婚カツ!」が酷い有様になっているので(実は自分も初回以降まだ見ていないのだが)あまり大口は叩けたもんではありません。控えめに「ミステリ初心者には楽しめるのかも」と言っておきましょう。