世にも奇妙な物語09春

いつもの、です。半年に一度ですがこの「世にも」感想も5年目に突入。以前の感想は「世にも」タグから、旧サイトの過去ログは4月及び10月付近の過去ログをあさると出てくるので、興味のある方は参考までに。備忘録も兼ねているので完全ネタバレです。

爆弾男のスイッチ

市原隼人主演。原作石黒正数ティッシュ配りのバイトをしていた主人公は、大学の見知らぬ同級生(本郷奏多)から「自分に仕掛けられている爆弾のスイッチを預かってほしい」と言われ、預かることになる。時期を同じくして乱暴な同級生(阿部亮平)に絡まれるように。乱暴な同級生の仕打ちに耐えられなくなった主人公は、爆弾男の同級生と乱暴な同級生が一緒にいるところでスイッチを押そうと決意し、実際に押すも爆発は起こらず。実は二人の同級生は「青少年のキレやすさを計る実験」をしている研究員であり、主人公に「一週間でスイッチを押したのは最短記録だ」と言い残し立ち去る。その発言にキレた主人公は、背後から二人を襲ってしまう。


今回の作品群は「皮肉」というテーマで統一されていたような気がします。この作品で言えば「若者がキレる実験をさせられたことにキレてしまう」という表の皮肉があり、その裏には「実は『キレる若者』というラベルを張ることが実際に若者をキレさせてしまうのではないか」というマスコミを皮肉った内容になってはいなかっただろうか。ちなみに最後のニュースのコメンテーターの「若者が心に爆弾を抱えていたのでは」というコメントは皮肉ではなく、単にうまいこと言いたかっただけ。藤井美菜は相変わらず美しい。

輪廻の村

伊東美咲主演。スクープを求めて謎の投書に書かれた鈴音村に取材に来た主人公は、村の住人の様子がどことなくおかしいことから、彼らが前世の記憶や身体的特徴を持った輪廻転生をしていることに気付く。この事実に気付いた主人公は秘密を教えてくれた少女と村を抜け出そうとするが、この村の本当の秘密は輪廻転生した人間が前世の復讐を果たすために存在していることで、主人公に恨みを抱いて自殺した男が少女に転生していたことに気付くも主人公は生き埋めにされてしまう。


うーん、なんだこれ。リアルタイムで見てたら間違いなく「SASUKE」にチャンネル変えてたと思う退屈さ。今回のホラー担当ではあるけども、あまり怖さが伝わってこないんだよなあ。伊東美咲とホラーの親和性がないというせいもあるかもしれないが、個人的には松明もって走り回る村人を見て「ダメだ……」と思ってしまった。一応「皮肉」という意味では、秘密を隠しているように見えた村人たちが復讐の機会を窺っていた少女を監禁することで主人公を逃がそうとしたのに、自ら復讐されに戻ってきてしまったことですか。ま、これに関しては「皮肉」は強引かな。

クイズ天国・クイズ地獄

石原良純主演。茶の間に流れるクイズ番組を「くだらない」と切り捨てた翌日、事あるごとに出題されるクイズに次々と不正解する主人公。会社もクビになり、オヤジ狩りにも遭い病院に運ばれるが、命を賭けたクイズに不正解してしまい、そのまま地獄行きとなる。


コンセプトは至極単純で「もし人生がクイズで左右されたら」というドリフの「もしも」シリーズに近い。クイズ番組マニアからすれば「ミリオネア」「格付けチェック」「ウルトラクイズ」などのパロディがあり、さらに出題されるクイズの形式も一般常識から時事、とんち系クイズまで多岐に渡っており「なかなか凝ってますな」と言いたくなる。その一方で、今のバラエティ番組にクイズが乱立していることに対するテレビ局の「言い訳」を見ているような気もした。最後に主人公の家族が言う「だからお父さんもクイズ見ておけばよかったのに」は、自分にはなんだか皮肉に聞こえた。

真夜中の殺人者

相武紗季主演。原作中井紀夫。合コンで変な男に告白されるも、「大きいことをしたら付き合ってあげる」とあしらった主人公。しかし相手の男は「今日決行します」というメッセージを送りつけ、彼女の住むマンションと向かいのマンションの住人を次々と襲い、部屋の電気で「I LOVE YOU」というメッセージを残そうとするも最後の一部屋で力尽きる。一方襲われたマンションの住人の通報により警察は犯人のもとに到着。最後の一部屋に灯りをつけたところでメッセージは完成し、向かいのマンションから見ていた主人公は「やるじゃん」と笑顔を見せる。


彼女の住んでいるマンションの住人が襲われ、最終的に彼女が襲われるとみせかけて実は彼女のために全く別のことをしていた、というトリックありきの作品。文字で起こしても何の面白みもない。しかし作品としては単純に主人公が襲われるわけではないだろうと視聴者に思わせておいて、その期待にしっかり応えている上々の作品。ちょいとしたミステリー仕立てではあるけど、その裏に「何も知らないからこそ笑っていられる」というブラックな皮肉がある。


それよりも個人的には鈴木亜美相武紗季の友達のOLとしてさも当たり前のように出演していたことに「これは何の皮肉なんだろう?」と思ってしまった。あと相武紗季はあまりにガール度が高すぎるので、一般女性が普通に喋っているであろう会話すら似合わない。いや贔屓目かもしれませんけどね。ガール度が高すぎて役の幅が狭すぎるという皮肉、ってことにしておこう。

ボランティア降臨

大竹しのぶ高島礼子主演。原宏一原作。ある日突如主人公(高島)のもとに現れたボランティア(大竹)。家事にパートに忙しい主人公はその存在を訝しく思いつつも、忙しさに負けてボランティアさんを受け容れてしまう。何でも笑顔で完璧にこなしてしまうボランティアさんに、主人公以外の家族は大満足。同じことを今までやっていたにも関わらず、ボランティアさんだけ褒められ重宝される事態に不満が爆発する主人公は、ボランティアさんに「善意であれば何をしても許されるの?」と問い詰めるも「ならばあなたもボランティアになればいい」と諭され、ボランティアさんになるべく家庭を去ってしまう。主人公がボランティアさんから家庭を去る際に渡された花柄のエプロンをした「ボランティアさん」が街中には溢れていた。


文句なく今回のナンバーワン。「ボランティアとは善意による行動である」という建前でもって、他人の心を平気で踏みにじる行動が出来ることの矛盾を前段で描きつつも、なおかつ「同じことをやってるのに、主婦は評価されず善意という名のボランティアなら評価される。だったらボランティアをすればいい」という、無私であるべきボランティアが完全に「他人に評価される」という自己のために変容している矛盾を皮肉たっぷりに描いている。どちらかひとつだけでも作品となりうるのに、両方ぶちこんでひとつの作品にしているこの凄さ。しかも最後に街中に溢れるエプロン姿は、大竹演じるボランティアさんが旅立った主人公の高島同様に元々はどこかの家庭の主婦だったことを示唆し、なおかつ「誰だって他人に認められたいという気持ちがあるのが普通」というボランティアの偽善を直視しつつも否定していない。そして主婦業がボランティアに置き換わった途端に感謝される、つまり「やって当然」だと思っていることも「やって当然」ではない人がやると無闇に感謝されることの皮肉すら突いている。


もちろん原作及び脚本が優れているのだろうが、大竹しのぶが「完全なる善意」を標榜して他人の領域に土足で入っていく気味の悪さを「ボランティアさん」で見事に表現している。これには恐れ入った。高島礼子も下手じゃないんだけど、無闇に美人だしどうにも所帯じみてくたびれた主婦って感じはしませんわね。寺島しのぶだったら良かったのに。しかし文句なく傑作。



「ボランティア降臨」が頭3つくらい突出した出来で、原作モノ2つも及第点。「クイズ天国・クイズ地獄」は個人的な趣味で楽しめた。「輪廻の村」だけがちとがっかりでしたが、全体から見れば前回同様面白い部類に入ると思います。それではまた半年後。