顔のない人たち

テレ朝の50周年記念特番は軒並み面白くかなりの割合で見ている。8日も過去のテレ朝の番組を振り返る放送を見ていたわけです。まあ全部ではないですが。


ドラマにバラエティ、スポーツと盛りだくさんの映像だったわけですが、自分が気になったのは「バラエティ番組や音楽番組で映る観客の顔に全てボカシが入っている」ことだ。


かつては過去のVTRにボカシがかかるのはもっぱら「元芸能人」の人だった。最近でいえば一番わかりやすいのが元U-turn土田晃之の相方対馬盛浩だろう。解散するときに「俺の顔を二度と出さないでくれ」と通達が届いたようで、現在過去VTRを流すときには対馬の顔は一切放送されない。


んまあ対馬の例は極端であるが、大体は「何らかの事情があって現在VTRに顔出しで使うことが出来ない」元芸能人がボカされていた。しかし今は違う。もっぱら過去VTRで放送されないのは一般人のほうである。


これはひとえに2005年に施行された「個人情報保護法」が原因だろう。みだりに個人情報を外部に漏らすことが出来なくなった。つまりは観客とはいえ一般人の顔を映した映像を許可なく流すことは出来ない、という意識にたってのものである。


笑っていいとも!」や「ごきげんよう」、「おもいっきりイイテレビ」など、現在も観客を入れて収録する番組はある。自分は個人情報保護法施行以後に番組観覧をしたことがないので想像ではあるが、おそらくは番組観覧のときに「番組で顔が映ること」に承諾する旨をサインなりさせられるのだと思う。だから現在収録分の番組に関しては顔が映っていることに関し問題はないのだろう。


しかし過去のVTRは過去のガイドラインに従って番組が製作されているわけで、当然にそんな承諾を取ってはいない。VTRが過去とは言っても流すのは現在であるわけで、そこで承諾なしに個人情報である顔を放映するのはNGなわけだ。だから芸能人の顔は流れる(=承諾が取れる)けども、一般人素人の顔は流れないという奇妙な事態になる。


もちろん個人情報の保護は大切だとは思う。法律だから遵守しなければならないという放送局の事情も分かる。けど、ここまで徹底したところで誰が得をするんだろうかという気はする。いや誰が得するとかいう問題ではないんだろうが、それにしてもだ。


今回流れたVTRの中で、どこかのホールで公開収録をしたらしき「テレビ演芸」が流れていたのだが、そこにいた観客の顔に全てボカシが入っていたのだ。はっきり言って不気味だった。言い方は悪いが、最近会長が捕まったL&Gの「円天」で買い物をしてウッハウハだったバカな人たちの集まりと同列に扱われている感じ。自分からすれば何もやましいところがないのにボカシをかけられるほうがイヤなんだが、どうだろう。


20数年前の「テレビ演芸」を見ていた人たちは、自分の顔が了承なしに流れることを嫌がるだろうか?きっと嫌がらないと思う。仮にそこに不倫相手と訪れていたとしてばっちり二人の顔が映っていたとしても、それを今見て怒り出す人がいるだろうか?いないんじゃないだろうか。


法律ってのは杓子定規であって、こういうところに融通が利かないからこそ、何か変な事態が起こる。みだりに素人の顔を映して許可なしに放映するのはいかんだろうが、少なくともテレビに出演すること、あるいは観覧を目的に集まった素人に関しては過去VTRであっても顔を出してもいいことにしてはくれないだろうか。なにせ過去に放送しているんだから、今更ダメということもないだろう。


あまりいい喩えではないんだけども、三遊亭円楽が亡くなったときのことを考えてみる。その時に追悼VTRとして過去の「笑点」が間違いなく流されるだろう。「笑点」オープニングも流れるとは思うのだが、そのときに円楽を囲んでいるお客さんに全員ボカシが入っていたら、円楽が亡くなったことの悲しさと別の変な気持ちを抱くことになりはしないか。顔の無いお客さんに囲まれた在りし日の円楽。そんな悲しすぎるVTRは見たくない。