振り子細工の心

・初恋
宮崎あおい主演で、昭和最大のミステリである「3億円事件」をモチーフにした作品。


「3億円事件」の実行犯である白バイの男は実は女性だった。という半ばファンタジーのような着想から物語は成立しているわけだけども、思いっきりファンタジーに振れているわけでもなく思ったよりちゃんとした筋立てにはなっていた。まあ原作の小説そのままなんだろうけども。


実際に犯人が女性だったかはともかく(個人的にはありえないと思うが)、この筋立ての物語を3億円事件モチーフでやる必要があったのかな、とは思う。タイトルは「初恋」であり、その名の通り初恋をした高校生の主人公がその恋のために3億円事件の実行犯という大役(そして犯罪)を仰せつかるというストーリーなのだけど、別にこれって3億円事件である必要が特にない。いやもちろん昭和最大のミステリである3億円事件の実行犯白バイ警官が女性だったというのは面白い解釈で、それこそ「幕末純情伝」の沖田総司のように定説が全く違った様相を見せるという意味での面白みはある。


けれどこの映画の肝は「3億円事件の主人公が女性だった」というところには置いていない。一応「女性で無免許の女性が実行犯だったから犯人のアシがつかなかった」という解釈を取ってはいるが、それがこの映画のギミックではない。むしろ前述のように「恋する一途な気持ちが3億円事件という大犯罪をもやらかす」という「恋ゆえの暴走」に重きが置かれている。


3億円事件は劇中でも触れられているように、誰も傷つけることなく3億円だけが奪われた事件で(それゆえに強盗ではなく窃盗扱いだった)あり、「人を傷つける」というハードルがない分だけ、犯罪という意識が薄いままに犯行に手を染めたという背景が描きやすい事件であるからこそ選ばれたのかもしれない。けどやっぱり3億円事件を新解釈で描くからには、女性であることの意味を最大限に描く物語を期待してしまうわけで。


この映画を単なる「恋愛映画」と捉えればそれなりの作品なのであろうが、「3億円事件」が絡んでくると素直にそういう評価が出来ない。恋愛映画を描くのに3億円事件というギミックはいささか大きすぎる。そして3億円事件があまりに軽く描かれすぎにも思える。真相は犯人のみぞ知る話で、実際の事件もこの映画で描かれたように非常にあっけないものなのかもしれない。ただ昭和最大のミステリが恋愛映画のギミック扱いでいいのか、と思ってしまう自分はやっぱり昭和の人間なのだろうか。まあ事件当時まだ生まれてもいないんだけど。


詰まるところ「宮崎あおいが可愛い」というしょうもない結論に落ち着く。もっとも自分は宮崎あおいがそれほど好きではないのでその見所すらあまり意味をなさない。