はじめて

NHKが上半期ゴールデンタイムの平均視聴率で民放を抜いてトップに立つというニュースが一週間ほど前に流れたのです。


なにやら「NHKニュース7」が安定しているのに加え、大河ドラマ篤姫」が好調、さらには北京五輪の中継がゴールデン1位の追い風になった模様。確かに何か事件があった日にはNHKを見てしまうことが多くなったし、北京五輪もなんだかんだで芸能人キャスターのいないNHKを見ることが多かった(しかし番組進行が良いかといえば実はそうでもなかった)。「篤姫」は見ていないけども、かなり面白いとのころ。自分は「新選組!」がおそらく生涯最初で最後の大河になるので、いかに評判が良かろうと見る気はしないけど、まあ面白いと評判であり、この躍進も頷ける。


NHKの一番の強みは「視聴率が関係ない」ことである。だから時に「誰が見るんだよこんな番組」という時代錯誤も甚だしい番組を平気で作っていたりする。その一方で数字が関係ないから民放では真似できない地味な企画ながら良質の番組を作り上げることも可能であり、それらの番組が評価されるようにもなってきている。


今回のトップという事態を、そのようなNHKの独自路線が実を結んだと評価することも出来る。しかし自分からすれば、最近のNHKは「視聴者の意見を取り入れる」という方向性を「視聴者に擦り寄る」と勘違いしているフシも見受けられ、どうにも視聴者ならびに視聴率に媚びているきらいがある。一概に悪いこととも言えないけども、最近の大河が民放のドラマのような顔ぶれにしているのもその一環に思える。


そりゃ視聴者(というか国民)の金で番組を作っているのだから、視聴者が見るような望むような番組を作るのは当然だ。しかしNHKが民放の真似をして変に視聴者を意識した番組を作るのは、どうもNHKの美学に反する。自分はNHKの意図的とも思えるほどのズレ具合がたまらなく好きなのだが、そこらへんが最近是正されちゃっててつまらない。今平気でヒロシを番組に起用するくらいのズレが欲しい。



という意味ありげなマクラから初めてみたが本文は全然関係ない。


自分は今週から、NHK教育の人気番組「趣味悠々」にて始まった「はじめての西国三十三所巡り」を見ることにした。


「はじめての」に続く言葉は「はじめてのおつかい」であるとか、「はじめてのチュウ」であるとか、大抵が大人になる前に済ます言葉である。裏を返せば、それらの行事を経験してはじめて「大人」の仲間入りをするといっても過言じゃない。だから「はじめての」に続く言葉は、本来はなかなかもって初々しい響きになるはずである。


そこにきて「はじめての西国三十三所巡り」ときたもんだ。全っ然初々しくない。一応自分もそれなりに年齢を重ねているので、そこそこ色々な「はじめて」のことを済ませてきたつもりである。しかしまだ「西国三十三所巡り」は済んでいなかった。テレビ欄でこの言葉を見るまでは一生済ますつもりもなかっただろう。しかし、この「はじめての西国三十三所巡り」という言葉を見てしまった以上は、本当に今後三十三所を巡るかどうかはともかく、とりあえず番組だけでも見ておかねばなるまいという気分にさせられたのだ。だから見た。録画してまで。


普通この手の巡礼といえばお遍路さんでお馴染みの「四国八十八ヶ所」が思い浮かぶ。しかしこの番組はなぜか(敢えて?)西国三十三所巡りだ。そこだけでも興味深い。しかも自分は「西国三十三所」の「西国」がどこを指すかも知らなかったゆえ、どこら辺を巡るのかも全く知らない。いわば純粋に「はじめての西国三十三所巡り」を見ることが出来る。この手の初心者ハウトゥー番組は、なまじ知識があると序盤で「そんなことは知ってるよ」と思ってしまい後半のディープな解説に入る前に飽きてしまうものだが、自分の場合は全てスポンジのように吸収(ただし殆ど漏れていくけど)。


番組のオープニングは和歌山県熊野古道。ということは「西国」は和歌山のあの一帯を指すのかと思えば、最初の第一番だけが熊野古道沿いの場所にあるだけで、残りは全然違う場所にある(参照)。四国のほうは比較的序盤が連なっているのに対し、西国は最初なのに僻地というとんでもないスタートなのである。奥が深い。もっとも必ずしも順番どおりに巡礼する必要はないのだけど。


これから9週2ヶ月に渡って生徒として三十三所を巡るのは、「忍たま乱太郎」でお馴染みの漫画家尼子騒兵衛歌人水原紫苑。尼子のことを「お馴染み」と書いてしまったが、自分は単に「忍たま乱太郎」の作者として名前を知っていただけであり、今回番組に登場した尼子本人を見てはじめて「こんなオバサンだったのか!」と思ったくらいで、女性であることすら知らなかった。一方の水原さんは全く知らない。この人もオバサン。


というわけで、オバサン二人と講師の頼富先生(種智院大学の学長さんだそうです)の3人がさっそく第一番の那智山青岸渡寺へ。参拝をして、なぜお寺のことを「札所」と言うのかなどの基礎知識を交えながら番組は進む。札所にある御詠歌を詠んで歌人の水原さんが「いい詩ですねえ」なんてコメントをつけたりして。本人たちは至ってマジメだが、見ているこっちはちょっと面白かった。


そんな有難いお話を聞いているうちに25分はあっという間、というには多少眠気が襲ってくるが基本マジメな話を集中して聞いていられるのが15分の自分には無理もない。「大人の趣味」のための番組である「趣味悠々」を見るにはまだ自分は大人になりきれていないということなのだろう。「はじめての西国三十三所巡り」の「はじめて」の位置にもまだ立てないということか。まだまだ修行が足りないようだ。



おそらく「はじめての西国三十三所巡り」は視聴率とほぼ無縁な番組だ。「篤姫」と違って視聴率20%なんて望むべくもない。けど究極的には視聴率が関係ないNHKにとって、「篤姫」も「はじめての西国三十三所巡り」も同価値であることをNHKの中の人は見誤ってほしくないんだよなあ。NHKが視聴率トップという報道に、余計なお世話だとは思うがそんな心配をしてしまう。