ロマンスの神様

映画「ザ・マジックアワー」を見てきました。


結論から先に述べますと、「THE有頂天ホテル」が70点だとすれば「ザ・マジックアワー」は71〜72点というところではないでしょうか。確かに「三谷映画過去最高傑作」ではあるかもしれないけども、「有頂天ホテル」の面白さを大きく越えているわけではない。そして今作も前作同様に、つまらないわけではないけどもかといって終始大爆笑という代物でもなかったです。ま、後ろに座っていたカップルは大爆笑していたので好みつうのもあるんでしょうが。それでも三谷作品大好きっ子な自分がそれほどでもないんだから、それほどでもないはずなんです。


前作は「登場人物が多すぎる」という感想に尽きたわけですが、今回は「やっぱり笑いが弱い」ことと「ちょっと冗長」という2点が欠点じゃないかと自分は思いました。以下理由。


笑いどころの核となるのはアンジャッシュのコントのような「取り違え」。殺し屋を演じている佐藤浩市をギャングたちは本物の殺し屋だと思っているところに齟齬が生じるはずなのに妙に不自然にかみ合ってしまうところがまた面白みになる。自分はこのシチュエーションだと「王様のレストラン」の「総支配人」と「宋支配人」を思い出してしまう。要するに三谷のコメディの得意とするところということだ。


ただ、前作もそうでしたが、どうしても大宣伝のせいで笑いどころが映画を見る前から分かっているわけです。例えば佐藤浩市が殺し屋の自己紹介をする時にナイフを舐めるシーン。このシーンは宣伝でも大々的に放送されており、おそらく大方の人が見る前からこのシーンを知っているはず。それでもこのシーンは天丼によって笑えるようにはなっているのですが、やっぱり自分はここで素直に笑えない。作り手に「笑え!」と言われているような気がしますから。


そして笑えるシーンのピークが早い。自分も面白かったし、映画館が最高に沸いたのが寺島進が「カット」と叫ぶのを佐藤浩市が責めるシーン。これは双方の勘違いがもたらす見事なシーンなのですが、意外に早い段階でこのシーンが出てしまう。そしてこれ以上に面白いシーンが以降出てこない。観客としては「あれより面白いシーンを」となるにも関わらず、出てこないのは拍子抜け。


前作が小さい笑いの連打だったのに対し、今回は大きく笑えるこのシーンが入っただけ自分は面白く感じたが、それが余計に以降の小さな笑いを「くすぶり」に感じさせるのが勿体無い。ストーリーの都合上仕方ないのかもしれないが、もっとなんか期待してしまうのは自分だけなのだろうか。伊吹吾郎の「撤収!」と叫ぶ大オチも悪くはないんだけど、それで誤魔化されているような気もするし。


そして笑いのピークが早かっただけに、途中のちょっとシリアスなシーンが冗長になってしまう。詰まる所自分はやっぱりこの映画に徹底的な笑いを求めているわけで、ストーリー進行も大事だけども笑わせてほしいんです。けどやっぱりなんだか笑いの総量が足りない気がするんだよなあ。映画だから映画っぽく、という変な意識を感じる。もっととことんコメディをやってほしい。


というわけで、決してつまらなかったわけでもないし、観た後にはそれなりに面白い映画ではあると思うんだけど、自分からすればやっぱり何か物足りない。これならばオチには賛否両論あっても明確に観客の意識に残る「大日本人」のほうが上だと思ってしまう。


ラヂオの時間」「みんなのいえ」は正直あまり面白くなかった。「有頂天ホテル」は前作2つに比べればひとつのブレイクスルーがあったように思う。そして今回の「マジックアワー」は「有頂天ホテル」よりは面白さの総量は上回っているかもしれないけど、さほど進歩が見られた気がしない。2作ごとに進化しているのであれば次回作はまたブレイクスルーがあって面白くなるのかもしれないけど、もしまた今作と同じような映画に仕上がっていたら、それは三谷幸喜の映画監督としての限界なのかもしれない。


もしこれが毎週放送される連ドラだったならまた評価も変わったのかも、と思わないではない。とりあえず一つだけ言えることは、あまりに楽しそうに笑っていた後ろのカップルのほうが自分よりあらゆる点において幸せであるということ。つまりは楽しんだもの勝ちということですわな、映画も人生も。